事故後に入社した社員が約7割 記憶の継承に課題

上村彩子キャスター:
由起さんの遺書には憎しみ、悔しさがにじんでいましたね。
そして取材した毎日放送の松本記者です。
事故から20年、風化させてはいけないと強い使命感を持っている方ももちろんいらっしゃると思いますが、現場での変化というものをどう感じますか。
毎日放送 松本陸 記者:
事故を起こしたJR西日本も、事故後に入社した社員が約7割を占めるようになりました。JRも当然、社内で記憶の継承に取り組んではいますが、別の記者が取材したご遺族によると、ここ数年の懇談の場で事故の死者数を正しく答えられない社員もいたということです。
当時の生々しい記憶を知る社員が減っていて、風化が進んでいると言わざるを得ない現状があります。
喜入友浩キャスター:
荒川さんのような悲しみがあったことを忘れてはいけませんよね。由起さんのような間接的な犠牲者というのは他にもいらっしゃったんでしょうか?

毎日放送 松本陸 記者:
事故車両の乗客で、ご自身は軽症で済んだものの事故当日が誕生日だったという男性の方がいらっしゃいました。
男性はその後PTSDを発症して事故から3年後に自ら命を絶ちました。自分の命を祝う誕生日と多くの人の死を目撃した日が重なったことが、男性の苦しみを強めたとみられています。
そして、その男性のご遺族やVTRに登場した荒川さんなど間接的に亡くなった方々のご遺族は、JRに対して直接的な死亡者に準ずる形でもいいので何らかの形で事故現場で追悼・慰霊をしてほしいというふうに求めてはきましたが、実現には至りませんでした。
直接亡くなった方々のご遺族の中にも、いわゆる関連死・遠因死の人々を同じ現場で追悼することにやはり慎重な考えを持たれる方もいらっしゃったということで、様々な要因が重なっての結果となっています。
上村彩子キャスター:
ただ関連死の遺族の方の気持ちに寄り添うことも求められますね。
毎日放送 松本陸 記者:
今回トラウマのケアなどに詳しい専門家にも取材したんですけれども、こういった関連死・遠因死の方々は事故の日で完全に人生が止まってしまっているんだと。自ら死を選んだのではなくて、死を選ばざるを得なかったという表現の方が正しいというふうに述べていました。
今後また大きな事故や災害が起きたときに同じような関連死・遠因死の方々が生まれてくる可能性もあると思います。そうした方々をどう慰霊・追悼していくのかというのは非常に難しいというふうに感じました。
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<プロフィール>
松本陸
毎日放送 報道センター記者
阪神・淡路大震災での“遠因死”も取材