映像の中に“現場”を持ち込む、細部への挑戦

日曜劇場『キャスター』より

本作のセットづくりにおいて、もう1つ難しかったことが、報道特有の“機材”の再現だった。報道スタジオでは、転がしモニターやプロンプター(原稿をモニターに表示し、演者がセリフや進行を正確に伝えるための装置)付きカメラ、クレーンカメラなど、特殊な装備が数多く稼働している。

通常のドラマ撮影では、これらの機材が画面に映り込むことは少ないが、『ニュースゲート』では“画面の中にスタジオそのものがある”という構造ゆえに、そういった機材のリアリティも重要になる。

「撮影用の機材だけでなく、映像に映り込むセットの一部としてのカメラやモニターの配置も必要でした。JBNのロゴシールをTBSの実機に貼って、あたかも局内機材に見えるよう細部まで作り込んでいます」。画面に映る全ての道具が、架空のテレビ局“JBN”の世界観を支える要素になる。

その再現は、映像の細部にまで及ぶ。スタジオ内のモニターに映るニュース映像は、助監督たちが実際に出演して制作したもので、放送局の各キー局を想定した複数のニュースラインが同時に映る設計となっている。

事前に助監督にモニターの数を伝えたという雨宮氏。自身も「何も流すものがないときのために、『ニュースゲート』のロゴがループ再生される動画を作成しました」と、モニターの多さ故に活用できる動画を作成した。

さらに、番組が進行する時間帯に合わせて、モニターに映る“世界の時計”も毎回細かく針を調整しているという。「あまりに細かいと大変ですが、一定のリアリティラインは保ちたい。そのさじ加減が難しくて、でも楽しい部分でもあるんです」。

こうして積み上げられたディテールの1つひとつが、ドラマでありながらリアルな報道番組のように見える世界を形作っている。

日曜劇場『キャスター』より

報道の現場にある緊張感と、ドラマならではの視覚的インパクト。その両立を目指した報道スタジオのセットは、ただの背景ではなく、登場人物たちと同じように“語る”存在になった。「動きが取れて、迫力のある、ただの板付き(最初からセットの中に司会者や出演者などがいること)じゃないセットにしたかった」と語る雨宮氏の言葉には、リアルとフィクションの狭間に挑んだ手応えがにじむ。