「静かな退職」をご存じですか?
会社などに勤めている人の働き方に関するこの言葉。この4月に『静かな退職という働き方』(海老原嗣生著、PHP新書)という本が出て、改めて(または新たに)目にする人も多いかも。
その気になってインターネットで検索してみると、多くの解説や分析を目にします。その中で、静かな退職の特徴を、簡潔かつ網羅的にカバーしていると思ったのが次の説明です。
実際に退職するわけでも、働かないわけでもない。仕事は仕事と割り切り、プライベートとの境界線をはっきりと引く。キャリアアップへの関心は薄く、仕事は最低限のみこなし、企業の目標よりも自分の幸福を優先する。心の中で仕事や職場と距離を置いているのだ。(小川・竹内、2024)
英語では「quiet quitting」。2022年に米国のキャリアコーチの男性が動画投稿アプリTikTokで発信し、米国で、1990年代半ばから2010年代序盤に生まれたZ世代に共感を集めたとのこと(朝日新聞、2024年9月30日)。
当時の米国事情を報じた記事(朝日新聞、2022年9月11日)によると、経済協力開発機構(OECD)のデータで、米国は04年以降、年間平均労働時間が主要国でトップ。金融大手など一部企業で長時間労働を「美徳」と考える風潮があり、米国人の「働きすぎ」な状況が問題視されるように。
コロナ感染拡大後は人手不足が深刻化し、転職者が急増。人材確保のために休暇制度の充実が企業の経営課題になったそうです。
同記事では、うつ状態などにある人の割合が、米国ではコロナ前の6.6%からコロナ後の20年には23.5%に急増、というOECDデータも紹介。コロナ禍でのストレスなどを理由に、特に若い世代や低所得者層の増加が際立つとか。
こうした状況で話題になったのが静かな退職、というわけです。同記事には次のようにあります。
例えば、会社からの休日の電話には出ず、時間外労働も引き受けない。決して仕事をサボるわけではなく、「それなり」に働き、後は自分の時間を充実させる。こうした考え方はコロナを機に広まり、30代以下の若い世代で支持を集めているという。(朝日新聞、2022年9月11日)
なるほど、そんな考え方がここ数年、若者世代で流行っているのか……。
そこで現在50代後半の筆者がふと思い出したのが、ある歌のフレーズ。それは、佐野元春『Happy Man』(1982年発表)の「仕事も適当に みんなが待ってる店まで Hurry up, Hurry up!」です。
仕事より一緒に騒げる仲間とのつき合いが大事というメッセージに、仕事の何たるかも知らない当時10代の筆者も感化。その曲には「ただのスクラップには なりたくないんだ Babe, baby」というフレーズもあったっけ……。