この30年、「働き方」意識はどうだったのか

静かな退職で『Happy Man』を連想するのは筆者くらいでしょうが、「仕事だけが生活の全てではない」という考え方は、昔からあるのでは。

それをデータで確かめようと思ったときこそ、TBS生活DATAライブラリ定例全国調査(注1)の出番。
TBSテレビをキー局とするテレビ局のネットワーク「JNN」が、毎年実施しているこの調査では、約30年ほど前から「仕事についての考え方」で、あてはまる選択肢をいくつでも選んでもらう質問を行っています。

静かな退職は会社などに勤める人の話題なので、今回の集計対象は「20歳~59歳男女で正規雇用の勤め人」としました。なお、静かな退職の「与えられた仕事をこなす」というニュアンスを汲んで、今回の集計では管理職を対象から外しています(注2)。

さて、静かな退職者は、仕事とプライベートをはっきり分けるとのこと。
そこで、「仕事のために家庭生活を犠牲にする/しない」「休日に仕事のことを考える/考えない」という意見について、ここ30年ほどの選択率推移を集計した結果が次の折れ線グラフです。

実線が「静かな退職」に同調する考え方、点線が反対の考え方ですが、30年前から同調派が大半で、反対派は2割前後。あまり大きな上下はなく、安定した推移であることが見て取れます。

出世は気にせず「生活の手段」に向き合う

静かな退職者の特徴に、キャリアアップへの関心が薄く、仕事や職場に心理的な距離を置いている、というのもあります。
それに関係しそうな、「仕事は生きがい/生活の手段」と「出世したい/気にしない」という意見の推移も見てみました。

こちらも前のグラフと同様、「静かな退職」への同調派(実線)が、反対派(点線)を遙かに上回った状態で安定推移。

「仕事が生きがい」とか「出世したい」といった、仕事に熱い思い入れのある人は、今も昔も1割程度。それに対して「出世は気にしない」人は6割弱、「仕事は生活の手段」と割り切る人は実に8割を占めています。

そういえば、静かな退職という考え方は、米国では30代以下のZ世代の共感を集めた、という話がありました。ということは、もしかしたら日本でも若者には何らかの傾向があるかも。

そこで「出世したい/気にしない」という意見について、選択率の推移を年代別に集計してみたのが、次の折れ線グラフです。

こちらも全体として、出世は気にしない「静かな退職」同調派(実線)が、出世したい反対派(点線)を遙かに上回っているのは前のグラフと同じ。

細かく見てみると、出世を気にしない態度の支持率は、00年代くらいまではどの年代も6割程度。それが10年代以降になると、20代や30代で支持率がやや下がっていますが、それでも5割前後をキープ。

一方、出世したい人の割合は昔から若年層ほど高く、90年代半ばに1割前後だったのが現在1割強ほどに微増していますが、結局はその程度。

こうしてみてくると、「静かな退職」という言葉は新しいものの、それにあてはまりそうな意見や態度は昔から大勢を占めていたようです。