「稲作コストは玄米1キロ当たり280円くらい。我々は3分の1くらいのコストで…」
日本の農業の大規模化はまだまだ障壁が多い。だが区画整理が実現し農業の大規模化が進めばコメ作りが根本的に変わるという。たとえば田植えをしない「直播」だ。苗を育て、水田に植える田植えは稲作の象徴的作業だが、徳本氏の大規模農場では水を張らない田に直接種を撒く。ひとつの大型耕作機械が、田を耕し、肥料を撒き、種を撒き、最後に除草剤を散布する。その上、機械はGPSによる自動操舵だ。田植えによるコメ作りに比べ圧倒的なコスト削減が可能だという。他にも液肥の散布にはドローンを導入していた。
農業法人『トゥリーアンドノーフ』徳本修一氏
「この10年間コメが本当に安い中、自分たちが農業経営者として生き残っていくために、今までのやり方を全部捨てました。完全にゼロベースで…(中略―――コストは削減できた?)農水省が出してる稲作コストは玄米1キロ当たり280~300円くらい。我々は今その3分の1くらいのコストで…。人件費も機械の償却費も入れてですよ」

ドローンで撒く肥料も稲の生育状況を見てAIがどこにどのくらい撒くか判断しているという。さらに害虫の問題もAIが天候や気温など様々なデータから農薬をいつ撒くのか判断しそれを実践すると確かに収穫量は増えるのだという。

宮城大学 大泉一貫 名誉教授
「アメリカのお米でも1キロ170円くらいですよ。徳本さんの方がはるかに安いですよ」
では、肝心の食味はどうなのか聞いた。
農業法人『トゥリーアンドノーフ』徳本修一氏
「これがですね、まったく遜色ないですよ。(―――品種は?)直播は倒れやすくて収穫量が少ない。倒れやすいコシヒカリとかは一切作っていない。我々は直播に適した、しかも収穫量が多い品種が日本でも増えてきたので、そういうものをチョイスして撒いている」
徳本氏はかつて消防士だった。IT企業を経て農業を志した。素人が始めてみると農業の常識は非常識に見えたという。その常識を破りながらコメ作りを続け6年でここまで来た。最も驚かされたのは、この東京ドーム21個分の田んぼでの稲作に従事している人員がわずか3人ということだ。
農業法人『トゥリーアンドノーフ』徳本修一氏
「機械のオペレーションは3人で回してます。従来の日本のコメ作りは1反当り投下労働時間が25時間と言われてるんですが、我々5時間くらいまで落とすことができた。それによっていい給料も払える。福利厚生も提供できて、それによってまたいい人材が集まる…。とにかく現場が儲からないと…日本は農家を守るのでなく、農業経営者を育てることに力を注ぐべきなんですよ。まだ政治を信頼していないので私たち民間で土地を買い集めて基盤整備しています」
経済評論家 加谷珪一氏
「間違いなく大規模化して増産して輸出もしていかなければならない。これはマスト。徳本さんのような優秀な経営者には資本市場でやれば資金も集まります。ただ日本にはボトルネックになる部分があって大企業でさえIT化は嫌だ異動は嫌だ転職は嫌だとなっているわけで、農業従事者だけに変化を求めるのは無理がある。日本全体が改革を勧めましょうというマインドにならないと政治も動かないのではないでしょうか」
(BS-TBS『報道1930』4月30日放送より)