早大111代目主将としての“早稲田愛”
織田記念優勝の感想を求められた井上は、「テレビで見ていた桐生さんたち先輩と走って光栄でしたし、この大会は早稲田の織田幹雄先輩を記念した大会でもあるので、ここで勝てたことはうれしい」と話した。織田幹雄氏は1928年アムステルダム五輪男子三段跳優勝者で、全競技を通じて日本人初の五輪金メダリスト。広島県出身で、同氏の功績を語り継ぐ大会として、織田記念は広島で開催されてきた。
織田氏へのリスペクトにとどまらず、早大競走部の111代目の主将である井上には、“早稲田愛”が感じられるコメントが多くあった。
「日本学生個人選手権も出ませんでしたし、5月の関東インカレも世界リレー選手権(中国・広州)と重なって出られないので、織田記念に出る決断をしたからには、しっかり勝たないと示しがつきません。主将としてそういう気持ちがありました」
早稲田愛が強いのは先輩たちの存在が、自身の成長につながったと感じているからでもある。
「早稲田の先輩たちと練習して競技力が高まりました。OBの皆さんから(一緒に練習した)先輩たちへと、伝統が受け継がれてきたことに感謝したい。(200mU20日本記録保持者の)大前監督や、(12年ロンドン五輪代表で現大阪ガスコーチの)江里口匡史さんに肩を並べたい気持ちがあります」
井上は個人種目より先に4×100mリレーの代表入りを果たした。日本は開催国枠でのエントリーにより、東京2025世界陸上の出場権はすでに得ているが、世界リレーの成績次第で走りやすいと言われているレーンでの出場が可能になる。早大チームでの経験が、リレーに対する自信にもつながっている。
「求められればどこでも走りますが、昨年は早稲田が日本選手権リレー、日本インカレ、関東インカレと4×100mリレーの3冠を達成しましたし、国民スポーツ大会も群馬県が優勝しました。そのすべてアンカーを走っているので、4走、直線で持ち味を出せると思います」
最速男を決める男子100mと、日本が五輪&世界陸上でメダルを獲得してきた4×100mリレー。注目度の高い2種目で、東京2025世界陸上への選考プロセスを盛り上げそうな選手が現れた。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)