織田幹雄記念国際が4月29日、広島市の広島広域公園陸上競技場で開催された。注目の男子100mは井上直紀(21、早大4年)が10秒12(追い風0.4m)で優勝。2位に樋口陸人(25、スズキ)が10秒14で、3位に桐生祥秀(29、日本生命)が10秒15で続いた。井上は東京2025世界陸上に対して「地元で、大学4年の節目で迎える大会。絶対に代表になる」と意欲を見せている。日本スプリント界のニューフェイス、井上とはどんな選手なのだろうか。
「世界陸上を狙って試合に出れば9秒台は付いてくる」
井上のリアクションタイムは0.175秒で8人中7番目。中盤までは右隣レーンの樋口、左隣の鈴木涼太(25、スズキ)にリードを許していた。80mくらいで2人並ぶと、最後は胸一つリードを奪ってフィニッシュ。日本グランプリ大会では初の優勝を飾った。
「今日は勝つために来ました。目標が達成できてうれしいです」
井上は織田記念の2日前まで開催された日本学生個人選手権には出場していない。ワールドユニバーシティゲームズの選考会で、学生有力選手の大半が出場した大会だが、世界陸上の選考に関わるポイントが高い織田記念を優先した。
「東京世界陸上だけを狙っています。世界陸上に出場するか、(今季の代表入りは)なしか、という腹のくくり方をしてきました」
後半の強さには、井上のメンタル面も影響している。「前に出られる展開には慣れているので、リードされてもまったく気になりません。レース中に力んだことはあまりないんです」。狙い通りに勝ちきったが、10秒12は「記録的には物足りない」と自覚している。世界陸上の参加標準記録は10秒00だ。しかし井上には「試合は運動会の徒競走のようなもの」という信念がある。

「速い選手たちと走ることが楽しいし、そういうところで勝つことが一番の醍醐味です。記録は今後、世界陸上を狙うために試合のレベルが上がったら、自ずと9秒台も付いてきます」
同学年の栁田大輝(21、東洋大4年)とともに、井上がU23世代の9秒台有力候補に踊り出た。
身長比133%のストライドの大きさが特徴
井上の特徴の1つにストライドの大きさがある。昨年までのデータでは44歩で100mを走る。早大の大前祐介監督は、井上の特徴と強化の視点を次のように話した。
「平均ストライドは227㎝。井上は171㎝なので身長比133%になります。130%を超えたら限界値、最大値に近い。それを生かしながら、脚を回す(ピッチを高める)のが次の課題です。それができれば自ずと9秒台は出るでしょう」
そのために冬期練習では「遊脚を戻すスピード」(井上)を強化した。
「蹴った脚が、身体を追い越して行くところのスピードを速くする取り組みです。スキップやバウンディングといったメニューを、そこを意識して行いました。60mのスキップのタイムが昨年までは8秒3~4でしたが、今年は7秒7に上がっています」
ウエイトトレーニングのやり方も変更した。大学入学後に積極的に取り組み、筋力が上がるのに伴ってタイムを上がってきた。「重さも少し増やしながら、昨年より速く上げています」。
織田記念の10秒12は自己新だったが、更新幅は最小の0.01秒。トレーニングの内容からも、まだまだ記録を伸ばしていける手応えがある。