今回の賢者は、料理人の村田吉弘氏。京都の老舗料亭「菊乃井」の三代目主人として、ミシュランガイドで16年連続三つ星を獲得。
2013年には和食のユネスコ無形文化遺産登録を主導し、世界に日本料理を発信し続ける村田氏が語る、SDGsの視点から見た2030年に向けた新たな価値観と生き方のヒントとは。
海の豊かさを守る。未来の子どもたちを飢えさせない
――賢者の方には「わたしのStyle2030」と題し、話していただくテーマをSDGs17の項目の中から選んでいただいています。村田さん、まずは何番でしょうか。

村田吉弘氏:
14番の「海の豊かさを守ろう」です。
――この実現に向けた提言をお願いします。

村田吉弘氏:
未来の子どもたちを飢えさせないことです。
――どんな危機が来るかわからないので、今から予見して準備しておく必要
村田吉弘氏:
人口が減っても、食べるものがあれば豊かに暮らせますが、食料がなくなると争いが起こります。食べるものがなくなるのを防ぐために、料理人としてできることは多いと考えています。海や山の環境を守ることが重要です。
例えば、有明海の海苔は半分に減りました。海の栄養が不足しているからです。何とか元に戻さなければなりません。日本の海岸線は世界で6番目に長く、食べられる海藻は1500種類もあります。
わかめや昆布しか知られていませんが、海藻を「シーベジタブル(海の野菜)」として活用すれば、CO2吸収にも貢献し、将来の食料問題にも対応できます。
海藻はタンパク質が豊富で、乾燥させると40%も含まれるんです。日本人は太古から海藻を食べてきましたが、欧米では消化酵素の違いで生では食べられません。
全人類が食べられる食材として、海藻を広めるべきです。
――食料自給率の低下も課題ですね。

村田吉弘氏:
日本の食料自給率は39%から37%に下がり、50年後には19%になるといわれています。アジアの経済発展が進む中、シンガポールや韓国に負け、次はマレーシアにも追い抜かれるかもしれません。小麦粉の割当量が決まっていて、アメリカから買えなくなるリスクもあります。
日本の子どもたちが飢えないよう、自給率を60%まで上げれば、誰も死ぬことはありません。
海藻を「海の野菜」として普及させる活動も進めています。3月のミシュランガイドセレモニーでは、海藻を使ったフィンガーフードを300人に振る舞いました。赤いもずくやオゴノリは食べたら美味しい。料理人として、使うことから始め、需要を生み出すことが大事です。

――地域での食文化の定着も重要ですね。
村田吉弘氏:
全国の料理人がメカブを流行らせれば、すぐに広まります。海水温が上がっても、沖縄や北の方でも、もずくは育ちます。藻が増えれば小魚が集まり、大きな魚も増える。そうやって日本の海を豊かに取り戻したいです。魚が減り、藻が増える現状を見ると、増やす方法を考えなければなりません。
私は料理人が集まって魚をどうにかしようと話し合う「Chefs for the Blue」関西支部の顧問ですが、天然しか使えないという思考はやめるべきです。
大間のマグロが高騰するのは、取り合うから。養殖業のレベルを上げ、お客様に提供できる品質を追求する方が生産的です。
革命はひとりから起こる。ちゃんとしたことを、ちゃんというと一緒にやろうという人が出てくる。
“活動”は若い人にやってもらわないと。「金はもらってくるし、なんでも好きなようにやれ」と言っている。失敗したら私が謝ればいい。
――普段は何を食べていますか?
村田吉弘氏:
店の若い子が作った賄いを食べます。ひどいときは「何やねん!」って感じですが、練習ですから仕方ありません。