米国の格差対策を「海外に責任転嫁」

さらに、米国内への生産拠点の移管や投資を求める“最大の背景”と入山さんが言うのは、製造業が空洞化した事で中間層が分解し拡大した【格差の問題】だ。

しかし、「問題の解消は極めて難しい」と指摘する。

入山さん:
「アメリカの場合は、西海岸・東海岸ニューヨークと中西部の間で格差が大きい。しかし共和党支持者が観るようなメディアではトランプ万歳。むしろトランプは雇用をどんどん生んでいるとアピールしていて、それを観ているので考え方が完全に分断してしまっている」

――今までは逆に製造業からITやサービス業に人がシフトしていくことが産業の高度化を招き豊かになると肯定的に捉えられたが、負の面が今注目されているということか。

入山さん:
「要するにアメリカは製造業の貿易が弱くなっているからこういう話が出てきているが、サービス業に関して言うと、実はアメリカはデジタル輸出がものすごくて日本なんかは完全に輸入超過。本来はそういうところの資金を中西部のような人々に還流する仕組みを国内でやるべきなのに、それをやらずに海外に責任転嫁しているという状態」

今のアメリカは「明日の日本」?

製造業の空洞化は、他人事ではない。

日本でも自動車産業が基幹産業として残っているとは言えども、製造業の空洞化が進んでいる。やがてそれが海外に流れてしまうと、アメリカのような格差拡大・分断が進むこともありえるのだろうか。

入山さん:
「中長期的にはあり得るというか、気をつけなければいけないと思う。所得の格差は日本でも拡大していく可能性がある。そうなるとどうしても<不満を持つ層>と、<持たない層>で国が割れる。まさに今アメリカでそれが起きてしまっているので、日本も気をつけないといけない」

――学ぶべきものは「分厚い中間層が維持できるような」産業、とりわけ製造業をどう日本国内に残していくかということか。

入山さん:
「そういう意味ではもちろん自動車もあるが、日本には今後期待できる分野がある。いわゆるIoTといって“デジタルとモノ作りが組み合わさる時代”になると、改めてモノ作りの強さが重要になってくる。例えば、半導体や工作機械、ロボット。あと素材分野なども日本は非常に強いので、こういったところが更に力を持って雇用を生み出し中間層をさらに分厚くしていくことが大事」

――今ある優位な日本の産業をどうやって連関させて残していくかということが問われている。

入山さん:
「加えて言うと、新しい産業としてやはり観光業。今後もっとインバウンドを増やして、より高度な付加価値の高いサービスを提供していけば、それが我々の賃金に返ってくる。この辺を戦略的にやることが大事だと思う」

(BS-TBS『Bizスクエア』 2025年4月19日放送より)