■成績は上位 いつも明るくて元気な中学1年生 でも「ビザがない」
おもちゃの車を走らせ、楽しそうに笑う少年。色とりどりのミニカーにかこまれて遊ぶ、ある家族の幸せな日常が描かれている。

この絵を描いた、中学1年生のアリフ君(仮名)。両親と5歳の弟と一緒に茨城県内で暮らしている。

アリフ君
「これがお父さんで、これが僕で、これが弟で、これがお母さんです。
ーー皆笑っているけど、喧嘩はしない?
アリフ君
「弟とはちょっと、たまに…」
この日は夏休み。中学校の同級生と自宅で遊ぶ。

幼なじみ 小澤夢羽さん
「(アリフ君とは)幼稚園から仲良い。小学校でもよく話して、中学校でも同じクラスだからよく話すって感じ。数学の授業とか(アリフ君が)手を挙げてて、いつも明るくて元気だから」

毎日の勉強も欠かさず、成績はいつもクラスの上位だ。得意科目は、歴史。
アリフ君
「今まだ飛鳥時代で、もうちょっとで飛鳥が終わるところ。中学校が楽しすぎて、すぐに終わっちゃう感じがします」
アリフ君の夢は、車のエンジニアになること。しかし…
アリフ君
「将来自分は…ビザがないと仕事ができないと思う」

■騙されビザを失効… 夢をあきらめきれず密入国の過去
アリフ君の父・モハンメドさん(仮名)は、1997年、南アジアの国から留学ビザで来日した。
大学在学中に「投資・経営ビザ」に切り替え、知人とともに日本で会社を設立しようとしたが、その知人に騙されビザを失ってしまう。
帰国を余儀なくされたモハンメドさん。しかし日本での起業をあきらめきれず、ブローカーに言われるまま2003年、密入国してしまった。
モハンメドさん
「私は本当に間違えました。大きい間違い。すごく悪いこと。どうやって謝っていいか言葉もありません。日本の政府、入管、皆に謝ります」

派遣会社や工場などで働きはじめたモハンメドさん。当時、「3K」と呼ばれた過酷な肉体労働を外国からの労働力に頼っていた日本では、今ほど不法滞在の取り締まりが厳しくなく、モハンメドさんのような境遇の外国人は少なくなかった。
身元を隠し、同じく不法滞在の妻とひっそり暮らしていた2009年、アリフ君が産まれた。
アリフ君の父・モハンメドさん
「産まれた後、すごく嬉しかった。お父さんになった、と」
アリフ君の母
「本当に、かわいかった!本当に」

先の見えない生活の中で、アリフ君は、夫婦の生きる希望だった。どんなにきつい仕事から帰ってきても、アリフくんの顔を見れば疲れが吹き飛んだ。だが、アリフ君が成長するにつれ、将来への不安は膨らんでいく。不法滞在が見つかってしまえば、家族の未来はどうなるのか。
アリフ君の父・モハンメドさん
「(ビザを)直さないといけない、直さないといけない・・・どうしても出頭しなくてはと」
モハンメドさんは入国管理局=入管に出頭し、日本滞在のビザを申請しようと決意した。だが出頭すれば、不法滞在者として収容される恐れもある。
アリフ君の父・モハンメドさん
「私も(収容される)準備した。家から鞄の中に色々入れて、入管に行った。すごく苦しかったけど。出頭して私はほっとした。楽になった。出頭して、捕まらなかったし…本当にそのとき楽に…」

何年にもわたり、この異国の地で、自分は存在しないものとされてきた。孤独と緊張がとけた瞬間だった。