関税とコメ高騰で「まさに二重苦」

湯気が立ち上る大きな蒸米機。そこから職人たちが手作業で蒸し上がったコメを掘り出していく。

「今やっているのは蒸上った酒米を放冷機に入れる作業。コメの量は1トン弱ぐらいで、結構体力がいる」

創業123年の歴史を誇る酒蔵『南部美人』(岩手県・二戸市)も苦悩を抱えている。

5日から発動された【一律10%の相互関税】の対象には日用品や食品なども含まれ、日本酒もその対象になっているからだ。

日本の「伝統的酒造り」は2024年12月にユネスコ無形文化遺産に登録され、日本酒業界には大きな追い風となっていたが、“トランプ関税”という逆風が吹いた形だ。

『南部美人』五代目蔵元・久慈浩介さん:
「実際輸出量も増えてきて、これからだというところだったのに、え?みたいな感じ。自動車とか鉄鋼はアメリカの国内産業を脅かすのは分からなくもないが、日本酒は日本でしか造れない。ここにも関税がかかってきてどうするんだろう、アメリカがそれで何か発展するのかなというのはちょっと不思議」

看板商品の「南部美人」は現在63の国と地域に輸出していて、その中でも最も多いのがアメリカだ。

久慈さん:
「一番最初に輸出をした国がアメリカで、30年近く徹底してやってきていることもありアメリカはすごく大事な場所。関税が高くなると、買い控えが起きたり、そもそもレストランで日本酒を飲む人も減ってしまうのではないか」

アメリカで人気の「南部美人 特別純米酒」(720ml)は日本で2134円だが、現在アメリカのレストランでは70~90ドル(約1万~1万2800円)で販売されている。

一律10%の相互関税による値上げは「今のところ考えていない」と言うが、もし上乗せ分も含め24%の関税となると、現地では最低でも100ドル(約1万4200円)ほどに価格が上がる可能性があるという。

さらに、頭を悩ませるのが原材料のコメの高騰だ。

久慈さん:
「コメが高いから今日はパン、今日はパスタと逃げることができるが、我々日本酒業界は日本産のコメを使わないと日本酒とGI(地理的表示)で言えない。日本中の全ての蔵が負っているダメージで、輸出の関税も含めてまさに二重苦。今一番苦しんでるのは日本酒業界ではないかと思う」