使われない「横顔取材」をテレビ局ならではのコンテンツに

では、具体的にどのような選挙報道がこれからテレビ局に求められるのでしょうか。

私は選挙プランナーとして、数多くの候補者に寄り添い、ともに戦ってきました。大型選挙の多くでは、候補者の記者会見から選挙の公示までのあいだに、メディアによる「横顔取材」が行われます。この「横顔取材」というのは、記者会見のようにかしこまったものではなく、候補者の横顔に迫る取材であり、フランクに行われるものです。

例えば、候補者の人柄や性格などを引き出す質疑であったり、あるいは候補者が選挙戦をどう展望しているかであったり、また人間性や政治観といった候補者個人の価値観を浮き彫りにしたりすることがその役割です。

これらの取材内容は、候補者の「正面」(経歴、政策)といった事項ではないために「横顔」と言われてきましたが、有権者がむしろメタデータ的な「正面」よりも「横顔」を重視するように変化していることは、ここまで述べた通りです。

しかしながら、多くの横顔取材が1時間程度かけて行われる一方で、その「横顔」が電波に乗ってお茶の間に届くころには、わずか数分程度に圧縮されてしまう「尺」の問題が残っています。

テレビ局は、SNSインフルエンサーと異なり、技術力や取材力があります。これらを使えば、候補者の「横顔」を候補者だけでなく支援者などへの取材を通して描ききることも可能でしょうし、百戦錬磨のインタビュアーがストレートな質問をすることで、候補者の対応力や人間力を引き出すことも可能かも知れません。

いっそのこと、候補者の経歴などメタデータを伝えるような報道は新聞等に任せてしまい、映像でしか伝えられない候補者の横顔、テレビ局でしか伝えられない候補者の人間性や価値観の描写に振り切ったドキュメンタリーチックな選挙報道をすることも考えられます。