“命を繋ぎたい” 精子凍結を選ぶ兵士

死と隣り合わせの生活が続く中で、何とかして命を繋ごうとする動きが見られるようになりました。

マリア・コトヴィッチさんは、兵士である夫の精子を使っての出産を決意しました。

マリア・コトヴィッチさん(35)
「これは、彼から貰った最後の写真です」

最愛の夫とは、もう2年近く連絡が取れていません。

マリアさん
「夫から『これから作戦に出るので数日間連絡が取れなくなる。心配しないで、全部うまくいく、いつもあなたと一緒にいる』とメッセージが来ました」

記者
「夫に会いたいですか?」

マリアさん
「すごく」

ウクライナ兵士の死者は4万6000人以上にのぼり、捕虜や行方不明者も数万人いるとみられています。

命を失っても大切な人と新しい命を繋ぎたい。そうした思いを生殖医療に託し、精子を凍結保存する兵士が今増えています。

その思いを受け取ったマリアさん。夫にはもう会えないと覚悟しています。

マリアさん
「一人ではとてもつらい、でも頑張ります。一人でも一生懸命育てます。だって、子供は彼の一部ですから」

そうして“つながっていく命”。その一方で、停戦を巡っては、ウクライナ、ロシア、アメリカそれぞれの思惑が交錯しています。

停戦を望むか、戦いを続けるか。この問いに残された兵士の妻たちは揺れていました。

妊娠告げた直後に夫が戦死、最後の一言は「帰りたい」

レイラさん(25)
「子供の名前はソロミヤです。伝統的なウクライナの名前です。名付けたのは夫でした」

ソロミアちゃんの妊娠が分かった1年前、夫のボロディミルさんは、東部ドネツク州の前線にいました。報告を受けた夫は…

夫 ボロディミルさん(戦地からの音声メッセージ 去年2月)
「私たちの赤ちゃんの子守をしたいね。絶対に君のような綺麗な目をしているだろうな。この世で一番幸せな男になるだろう」

レイラさん
「妊娠を伝えると夫はとても喜んでくれました。すぐ家に帰りたいと言っていました」

ところが、夫からの「ある任務につく」とのメッセージを最後に、連絡がつかなくなりました。その翌日の2024年2月12日に、ロシア軍の攻撃に巻き込まれ亡くなっていたのです。

兵士の夫を失った妻は数万人にものぼると推計されています。真新しい墓が並んだ墓地は、レイラさんと同じ境遇の妻たちが集まる場所となっていました。

レイラさん
「しっかりしなきゃ」
女性
「できないよ」

最新の世論調査では、

戦争継続でも領土を断念すべきではない…51%
和平の早期実現のため一部領土を放棄してもいい…38%
わからない…11%
※キーウ国際社会学研究所 調査

夫が戦死したアンナさん
「もしここで領土を放棄したら、兵士たちは何のために命を捨てたのでしょうか。死んでいった兵士たちは絶対に納得しないでしょう」
「少なくとも私の夫は納得しないでしょう」

戦争で夫を亡くしたレイラさん

レイラさん
「家の壁にはパパの写真がかかっているので、私はいつも『これは君のパパだよ』って言っています。もしかして、最初の言葉は『パパ』になるかも」

兵士の妻として、「占拠された領土を手放してはならない」と話す一方で…

レイラさん
「もし私が戦争と無縁で、夫も戦争に参加していなかったとしたら、正直に言って私はどんな状況でも、戦争が終わることを望んでいます」