与野党双方に求められる「政治の責任」

「年収103万円の壁の引き上げ」や「高校授業料の無償化」など、野党の主張する政策は、物価高などに苦しむ有権者から支持を得ている。特に「年収103万円の壁の引き上げ」は去年の衆院選での国民民主党の躍進やその後の支持率の上昇を見ても期待する声が大きいことが窺える。
ただ、ここで問題になるのが、やはり財源だ。明確な財源を示さずして聞こえの良いことだけを言うのでは、有権者の不満の受け皿にはなれても責任ある政治とは言えない。
では、財源はどう生み出すのか。主に3つの方法が俎上に上がっている。
(1)行財政改革・無駄な予算の削減や、外為特会の余剰金の活用などで、財源とする
(2)国債の発行(国の借金)をして、財源とする
(3)生産性を高めるなどして税収を増やし、財源とする
いま、与野党間で主に議論されている財源の生み出し方は(1)だ。立憲民主党は「本気の歳出改革チーム」を作り、新年度予算案について約3兆8000億円の“ムダ”を指摘。その分をガソリン価格の引き下げや学校給食の無償化に充てるよう要求している。
一方、国民民主党や日本維新の会は主張する政策実現のための十分な財源は示せておらず、政府・与党側に財源を考えるよう求めている。特に国民民主党が求める「年収103万円の壁」の178万円への引き上げには7~8兆円の財源が必要となることから、実行するなら(2)の国債発行(国の借金)をすることになる可能性が出て来る。
“今の苦しい生活を乗り切るためには減税は必要”との主張は生活者に寄り添う姿勢のあらわれでもあるが、ツケはいつかは自分たちや将来世代にはね返ってくるものだということを忘れてはならず、国会での丁寧な議論が必要だ。
自民党は(3)「生産性を高め税収を増やす」ことを主張する。一時的な減税は消費の喚起に繋がるが、少子高齢化で生産年齢人口が減少する中、今の公共サービスなどを維持するためには、減税により国の財政を不安定化させるのではなく、生産性を高めることが重要との考えだ。
ただ、派閥の裏金問題の実態解明に本気で取り組む姿勢は見えず、信頼回復が出来ていない中、何を訴えても有権者に声が届きにくくなっているのが現状だ。
減税や生活者支援の政策に慎重な姿勢を見せることは有権者の理解が得られにくい。確かに今の生活に苦しむ国民に政治は向き合わなければいけないが、同時に未来にも責任を持たなければいけない。政治家に求められるのは「勇気と真心を持って真実を語る」ことだ。これは渡辺美智雄元副総理が語り、石破総理が就任前まで度々引用してきた言葉だ。
各党、今夏に控える東京都議会議員選挙や参議院選挙を見据え激しい駆け引きを繰り広げているが、「今」だけではなく「未来」にも責任を持った真摯な議論が求められている。
TBSテレビ政治部
官邸キャップ 中島哲平