坑口を前に調査への道のり

1か月後、「刻む会」は坑口の前に遺族を招いた。そこには、常西さんの姿もあった。坑口の前には、常西さんの父親の遺影が置かれていた。

常西勝彦さん
「坑口を見る、そして今、親父の写真が貼ってあるものですから、きょうしっかりわかりました。冷たい水の中にまだいるんだと思います。なんとか早く出して、再会したいと思っています」

坑口に向かって「故郷に帰りましょう」と呼びかける、韓国の遺族たち。

韓国の遺族
「お父さん、私が来ました」

坑口の掘り出しで、遺骨収集は一気に現実味を帯びた。一方で、濁った水の中でどう調査を行うのか、課題も残されていた。

そんな折、強力な助っ人が名乗りをあげた。水中探検家の伊左治佳孝さん。洞窟など、閉鎖環境での潜水のエキスパートだ。

水中探検家 伊左治佳孝さん
「単純に、自分の親とかがあの炭鉱の中でそのまま、遺骨のまま残っているってなったら、全員、誰が聞いても悲しいと思うんですよ。悲しいことだから協力しましょうねって、僕はそれだけでいいと思うんですけどね」

まず、筒状の構造物「ピーヤ」から、坑道に入れないかを探る。伊左治さんは、ピーヤと坑道が交わっているとみられる付近、水深27メートルまで潜水した。そこにはパイプなど、金属が折り重なっていたという。

伊左治佳孝さん
「横穴(坑道)は生きてそうですね」

「刻む会」と伊左治さんは、最終的に坑口から遺骨の捜索を行う方針を固めた。国に調査への協力を促すため、伊左治さんが議員に向け、調査の安全性を説明する機会を設けた。

伊左治佳孝さん
「(崩落を起こさないよう)排気の泡を出さない機械を使っての潜水を行っていますし、これによって、おもだったリスクは解消するのかなと思っております」

だが、国が方針を覆すことはなかった。