(少年)「遊びに行く前は、ホンマに、仕事ブチるとか考えてなかったし、何時に帰ろうかなぐらいの気持ちでおったんですけど、先輩が飲みに行くって言って、そのまま僕も…。」
少年はこの数日間、地元の先輩や不良仲間たちと過ごし、酒も飲んでいたという。

(松本さん)「そっちに戻りたいなら戻れや、半グレか反社か知らんけど。お前、変わりたいんちゃうんか?それとももう一回捕まりたいんか?」
酔いが覚めた頃、少年の頭には松本さんの家族や会社の仲間たちの顔が浮かび、そこから帰る気になったという。
松本さんは少年の謝罪を受け入れた。
翌朝、少年は会社の仲間たちにも謝罪し、そのあといつも通り現場に出掛けた。
■「ホンマに変われる」歩んでいく更生の道
少年院を出て1年以上。この日、松本さんは少年をある場所へと連れ出した。兵庫県にある加古川刑務所。

若者たちの更生支援活動を続ける松本さんは、たびたび刑務所や少年院を訪れ、講話を行っている。今回は少年に今の気持ちを語らせようと、初めて連れてきた。

講堂には50人近くの受刑者が集まり少年たちの話に耳を傾けた。
(少年)「この1年で5回ぐらい飛んでるし、無断欠勤しまくっているにもかかわらず、まだ働かせてもらってるんで。最近やっと気付いてきた感じなんですけど、ホンマに仕事で変われるなって、最近めっちゃ思うんですよ。」
緊張した面持ちで心境を語る少年。受刑者たちからも次々に質問が飛んだ。

(受刑者1)「(刑務所)出てからどういう扱いを受けるか不安なんで。」
(受刑者2)「どこかで遊んじゃうんじゃないかなって気持ちがあるんですが。」
(松本さん)「それ、今の彼ですよ。」
(少年)「僕もめっちゃ遊びたかったし、今も遊びたいし。でも僕は親を頼れないんで、社長しか頼れなくて。だから困ったときはすぐ連絡するし、何があっても連絡するんで。僕はまだ更生できてるかわかんないですけど、頑張ります。」
講話の感想を聞くと。
(少年)「正直自分がああやって座っている側(受刑者)にはなりたくないなって思いました、やっぱり塀の中は高いですね。」
(松本さん)「彼は時間がかかるの分かってます、でも僕とおる限り絶対あっち側には行かせへん。この子はあかんやろうって言うのは簡単です、でもチャンスを与えなかったらまた悪いことをする、反省は1人でできるけど更生は1人じゃできないんです。だから僕はこいつとガッチリおるんです。」
少年はこれからも松本さんの伴走を受けながら更生を目指していく。

■取材を終えて
長年、非行少年の取材を続ける中でいつも感じることは、彼らは自分一人の力でこうなったわけではないということだ。生まれながらの家庭環境で、目の前にいた大人たちの影響をまともに受けて非行に走っているということだ。
10代という多感な時期に、親から引き受けを拒否され、行き場を失った少年の心境は察するに余りある。もし自分だったらどうだろう。腐らずに踏ん張ることができただろうか。我々大人たちが自分ごととして考えなければ、再非行防止には繋がらない。
少年院に入るレベルの少年たちは不器用で感情表現が苦手なうえ、人の気持ちを理解する力も乏しい。非行に走る理由は本人の能力的な問題もあるが、それ以上に愛情をかけて育てられてこなかったことに大きな原因があると思う。
松本商会に拾われた少年は寂しがり屋で愛情にも飢えていた。それを見透かされないように虚勢を張り、悪いことをして気持ちを満たしていた。失踪して戻ってきた時、彼は松本さんの家族の前で「自分で自分のことが分からない」と言っていた。頑張りたくても頑張れない、自立したくてもどうしていいかわからない、彼が発した言葉は心の叫びのように私には聞こえた。少年たちが抱える生きづらさや孤独感をもっと理解しないといけない、そう強く思った。
