(少年)「少年院に入った頃は気分が落ち着かず、毎日とても苦痛でした。そんなある日、担任の先生との面接があり、自分のことを分かろうとしてくれたり、『大丈夫だ』と励ましたりしてくれたおかげで少しずつ悩みを話せるようになりました。そこから人の気持ちを考えられるようになり,もう裏切らへんという気持ちも強くなりました。出院してからは真面目に仕事をして、正しい道に進めるように母の言うことや周りの人の話も受け入れていくようにします。」
時折、つっかえながらも、強い決意を語った少年。母親に感謝の気持ちも伝えた。

(少年)「小学生の頃から迷惑かけることが増え、毎日誰かに頭を下げさせるようなことをしてしまい本当にごめん。正直、鑑別所に入った時、手紙も面会もなく見捨てられたかと思いましたが、少年院に入ってから毎月面会に来てくれたり、手紙をくれたりした時はホッとしました。」
最後は感情が込み上げ、涙を流しながら、それでも精一杯思いを伝えた。
「今まで裏切って傷つけてきたのに『生まれてきてくれてありがとう』と言ってくれてホンマにありがとう。頼りないかもしれんけど、これからは何か言われたら手伝うし、少しは支えられるようにするから、僕が頑張っている姿を見てほしいです。」
我が子の姿に母親も思わず涙した。
少年を1年間指導してきた法務教官は。
(法務教官)「なかなか成長が実感できなかった子なので、それがああやってかたちあるものとして発表できたことは良かった。信じてやってきたことは必ず彼自身の力になると思います。」
少年はひと月後、少年院を出た。本番はこれからだ。
■取材を終えて
17歳の少年は愛想がよく、取材で出会った非行少年の中でずば抜けて好印象だった。
そんな彼はインタビューで思わぬ言葉を口にした。
「僕、(新入時の)行動訓練が全然できなくて、いつも部屋で泣いてました。」
「境界知能」と言われる少年たちは、他人とコミュニケーションを取ることが苦手で、生きづらさやストレスを抱えている者は多い。
少年もその一人だった。少年院に入って半年が経っていたが、自分に自信が持てず、将来の方向性も見出せずに悩んでいた。
そんな少年にとって唯一心の拠り所になっていたのが、担任の法務教官だった。面接をしてもらっている時の少年はとても嬉しそうで、教官に心を許している感じだった。この光景を見て、社会にいる時、少年にはこうやって話せる大人がいなかったんだなと強く感じた。
少年は、幼い頃から虐待を受けていて、安心して過ごせる居場所がなかった。ここが彼の非行の原点だったのだろう。
少年たちが犯した罪は決して許されるものではない。だが、その背景に目を向けると、彼らには被害者という側面があることを強く感じる。
少年の中には「社会にいるより少年院にいた方がいい」と答える子は多い。
10代の若者たちからこういう言葉が出てくるのは深刻だ。彼らがいかに社会に居場所がないかということの表れだと思う。出院前のリスタート宣言で少年たちは、自立に向けた意気込みを力強く語った。17歳の少年も母親に対し「頑張っている姿を見てほしい」と涙ながらに語った。
こうした少年たちの気持ちに応えられるような社会にしていくのが我々大人の責務だろう。
