「宙わたる教室」にみる、令和の理想の教師像とは

影山 「宙わたる教室」(NHK)はいかがでしょう。

倉田 窪田正孝さん演じる先生がすばらしい。研究者をやめて、定時制高校に理科の先生として来た役柄です。定時制なので、いろいろな背景を抱えた生徒がいる。その生徒たちが、先生が始めた科学部に集まり、大会での発表を目指す。それだけでも心が温かくなるストーリーですが、先生と生徒一人一人のかかわり方が、こんな先生に出会えたら幸せだなと思えるものでした。

生徒役の若手俳優さんがいいです。小林虎之介さんが演じた男子生徒は、識字障がい(ディスレクシア)があるのに、それを知らずに高校に通っていて、障がいがあることを先生に気づいてもらうんです。早くに気づいていれば、困難を抱えず、別の人生があったかもしれない。でも、20歳ぐらいになって指摘されたとき、何で今まで誰も気づいてくれなかったんだ、今さら指摘されて、これから自分の人生が変わるんだろうかといった複雑な心境、怒りや戸惑いを、すばらしい演技で見せてくれました。

田幸 小林さんの、お芝居を始めてまだ数年というキャリアだからこその吸収力と成長、輝きが、この作品の中に全部詰まっている。ある種の小林さんのドキュメンタリーみたいな感覚もありました。

倉田 もう一人、伊東蒼さん。「新宿野戦病院」(フジ・2024)に出ていて、存在感があるなと思っていましたが、今回は、優秀な姉と比べられて自己肯定感が低い女の子の役。こういう繊細な役がすごくうまい。二人の若手俳優の存在に改めて気づけたという意味でも、大好きな作品です。

田幸 窪田さんが来たことによってみんなが救われるだけでなく、実は生徒たちの変化によって、窪田さん自身が一番変わっていくのが後半で見えてくる。この繊細なお芝居が窪田さんはうまい。

影山 窪田さんは、令和の先生の理想像みたいな感じですね。若い生徒に対しても丁寧語を使う。僕が若い頃の青春ドラマの先生は、「俺についてこい!」みたいな感じでしたが、常に丁寧語で、声を荒げたりもしない。静かに教え諭して、相手を尊重する。そこが今の時代にすごくフィットした先生像でした。

イッセー尾形さんがクローズアップされた回があったじゃないですか。ひとりしゃべりで自分の背景や歴史を語る。イッセーさんは一人芝居の舞台が有名ですが、そんな感じの設定で、水を得た魚のように光っていました。この作品でイッセーさんの果たした役割は大きかったと思います。