「監察医朝顔」での上野樹里の仕事への取り組み方

倉田 「監察医朝顔」(フジ)。シリーズ全体のすばらしさはご存じのとおりですが、今回特に好きだったポイントが2つあります。

監察医の朝顔(上野樹里)と夫は、時任三郎さん演じる、平さんという朝顔の父親と同居していたんですが、そのお父さんが前回までに認知症になってしまうんです。

今回、その父親の「不在」がすごく突き刺さりました。過去のシリーズで、朝顔の娘に「じいじ、じいじ」と言われて面倒を見ていたお父さんが、認知症が進んで、もう孫の面倒も見られない。施設へ行ってしまった。にぎやかな家族の風景の中に、今までいた人がいないということが、こんなに寂しいんだということを教えてもらった感じです。

もう一点は作品で扱われる事件について。ちょっとネタバレですが、数十年前に小学生の女の子が誘拐され、ずっと行方不明の中での、その少女のお父さんの長年の思い……。演じているのは酒向芳さん、「海に眠るダイヤモンド」では最後のほうで意外な役柄ということが判明しました。

影山 うまいですよね。

倉田 酒向さんの演技がすばらしかった。被害者とその家族の思いに、すごく心が揺さぶられました。平さんの不在と、事件で娘を失ったお父さんのつらさ、それがうまく絡み合って、1つの作品としてシリーズのファンを放さない、今回も満足させるぞという意気込みを感じました。

田幸 上野さんに取材したときに「ドラマはライブだから」とおっしゃっていました。「朝顔」は法医学の話ですが、ホームドラマの色合いが強い。家庭の中での役割分担やルーティン、例えば食事だけでも、ご飯はお父さんがよそっている方が自然だよね、だったらそのとき朝顔はこうしているよね、といったことを、現場でディスカッションしながらつくっているそうです。
 
上野さんのようなかかわり方、若い人でいうと杉咲花さんがそういう形のドラマとのかかわり方で、一役者ではなく、ある種のプロデューサー的な目線を持っている。神木隆之介さんもそうで、「海に眠るダイヤモンド」では神木さんと杉咲さんのシーンが本当にドキュメンタリーを見ているように生々しかった。二人のアドリブのかけ合いがあったりするそうです。

杉咲さんは「アンメット」(カンテレ・2024)でも1話あたり8時間とかスタッフと台本打ち合わせをやって、徹底したリアルを追求しているそうです。ベースにいい脚本があることが大前提ですが、感情のリアル、人間のリアルをその場でつくる力のある役者さんがいる現場では、その人の力によって、本を超える作品が生まれる。役者の力は大きいなと「朝顔」を見ても「海に眠るダイヤモンド」を見ても感じました。

影山 時任三郎さん、僕の若い頃でいうと格好良くて憧れる役者さんでした。「ふぞろいの林檎たち」(TBS・1983~)があり、「24時間戦えますか」があったし「川の流れを抱いて眠りたい」というヒット曲もありました。やはりドラマってすごいなと思うのは、時間の経過に対して感情移入して時任さんを見ることになるんです。老いていく時任さんが認知症の施設へ入るというのはたまらない、何とも言えない。ドラマで描いている以上のものをこっちが先回りして感動してしまう、これもドラマの力だという気がします。