2024年10月期のドラマについて、メディア論を専門とする同志社女子大学・影山貴彦教授、ドラマに強いフリーライターの田幸和歌子氏、毎日新聞学芸部の倉田陶子芸能担当デスクの3名が熱く語る。ここ数年で出色の作品もある一方、「おむすび」はちょっと…。
風景そのものがドラマになっていた「海に眠るダイヤモン
ド」
倉田 「海に眠るダイヤモンド」(TBS)。影山先生もコラムで「民放の大河」とお書きになっていましたが、それに尽きます。
今の私たちは、廃墟の軍艦島しか知りませんが、ドラマでは全盛期の姿が見事によみがえっています。炭鉱での厳しい仕事の一方、人々の日常の助け合い、狭い家が密集した暮らしの中でも、楽しく過ごす工夫、それこそ映画館があったり、昭和の懐かしさを集約したところに共感しました。
もちろん、鉄平と朝子の恋などストーリーにも引き込まれました。鉄平の兄が炭鉱の事故で亡くなるなど、悲しい物語もしっかり描く。楽しいことも悲しいこともいろいろあって、それを乗り越えて、人は人としての営みを紡いでいくのだと感じました。
現代パートのホストの玲央と、昭和の鉄平を演じ分けた神木隆之介さんがよかったです。好青年で仕事もしっかりやり、朝子との関係もピュアに進めていく鉄平役もお似合いですが、私は現代パートの玲央が結構好きでした。ホストとして華やかな世界に生きていそうだけれど、うまくいかない人生がある。その中で出会いがあって、ホストだけではない生き方を見つけていく姿がよかったですね。
最終回は涙、涙で、島を離れた後の鉄平の人生にはいろいろ考えさせられました。愛する人を守るために逃げ続ける人生、それでも最後は鉄平もコスモス越しに軍艦島を見ていたんだと思うと、つらい人生の中でも、彼にもきっと幸せな瞬間はあっただろうと、本当に涙がとまりませんでした。
田幸 2つの時間を行き来する構成の複雑さもあり、(この作品の脚本家である)野木亜紀子さんが手がけた「アンナチュラル」(TBS・2018)や「MIU404」(TBS・2020)のようなキャラクター萌えの人が一気にはまったり、社会風刺やストレートなメッセージに共感したりする作品ではないだけに、序盤は難解に感じた方もいるのではないかと思います。
ただ、作品のできばえはすばらしかった。脚本がすばらしいのは当然として、演出がすごい。島に暮らす人々の日々の営み、風景そのものがドラマになっていました。風景でドラマを見せる作品というのは限られている中で、この風景をずっと見せてくれた、演出の塚原あゆ子さんと、新井順子プロデューサーの力がいかんなく発揮された作品だと思います。
出演者の事務所の方に聞いた話ですが、食堂のメニューの中に、長崎の珍しい魚が載っている。わざわざ取り寄せているそうで、そこまでやるかとびっくりしたそうです。
映像に映らないところまで含めて、手間をかけて丁寧につくり込んだからこそ、キャストもスタッフも一丸となって、あの世界を楽しんで、あの世界を必死に生きていたように感じました。ここ数年で出色の作品だと思います。
影山 軽めの話をすると、僕の周りでは、宮本信子さんの若かりし日は誰が演じているのかが話題になって、大学の教え子たちは初回を見て「池田エライザさんや」と言っていました。しかし僕は確信をもって「宮本さんは杉咲花さんやで」と言っていて、珍しく学生たちから尊敬を受けたんです。絶対に杉咲さんだろうという感じがしました。
野木さんは緊張と緩和のうまさがピカイチですね。印象に残った場面でいうと、最終回の鉄平・玲央で、玲央君がテレビ画面を見ながら「鉄平と似てる?」「似てないわね」という宮本さんとのやりとり。いかにも野木ワールドという感じがしました。
視聴率的に云々ということがありますが、もうテレビドラマを視聴率で語る時代ではないです。配信が全盛ということもありますし、まだそれに拘泥して世帯視聴率で語りたがるメディアもありますが、それはもう違うということは強く申し上げておきたいです。
あと、赤ちゃんを誘拐して、かごの中に入れて刃物で刺すところがありました。僕は、あそこまでせんでもええんちゃうかな、あの残酷性はもうちょっとソフトにできなかったかなと思いますが、どうですか。
田幸 私も、わっ、エグいなと思いましたが、あくまで見せずにというのが配慮なのだろうと思いました。見せないからこそのエグさもありますけど。
倉田 私も、かごに蓋をした状態で刺したのが配慮なのだろうと感じました。一方で、見えないがゆえに、赤ちゃんがどうなったのか、すごく心が動揺したので、それも含めての演出なのかなと思っています。残虐なシーンですが、あの当時、昭和のヤクザ者がやるということで言うと、そういったこともあったんだろうと感じました。
影山 なぜお聞きしたかというと、私が申し上げたいのは、ネット隆盛の時代で、演出が自分の意にそぐわないとコテンパンに言う人がいる。「べらぼう」(NHK)で遊女のお尻が出てくると、あれは何だとめちゃくちゃに罵倒する。演出陣も演者もそれぞれの解釈があってやっているわけですから、いろいろな見方があっていいはずですよね。