駅で職場で議場で――子連れは迷惑?

実は、子持ち様論争と似たような論争は半世紀前にもあった。当時の国鉄・私鉄・地下鉄が1973年9月、「ベビーカーは危険で他のお客さまの迷惑になる」という理由で、ベビーカー乗り入れ禁止のポスターを東京都内の駅に貼りめぐらした。同年12月には、「ベビーカーが火災時に通路を防ぐ」という理由から、消防庁がデパート内の使用禁止を通達した。

今より混雑が激しかった電車内の安全確保や、このころ相次いだデパート火災でベビーカーが避難の妨げになったという声を受けた措置であった。

そんな動きに対して、社会的弱者である女性の解放を目指すグループ(東京こむうぬ、リブ新宿センター)は「ベビーカーの使用を従来通り認めよ」と鉄道会社やデパートに抗議した。

彼女たちは「人々の疲れ、余裕のなさのなかに、泣きわめく子どもは邪魔、他人の迷惑、人の集まるところに子どもを連れてくるな、とベビーカーを閉め出す」と訴えた。その活動のおかげで、その後にデパートでのベビーカー禁止が撤回されることとなった(※1)。 

当時、この様子を報じた新聞記事には、「新宿の百貨店に“ママ闘志”十数人が押しかけて抗議」「子供連れと母親、身障者の対策を考えるとの約束を取り付けた“闘女”たち」(1974年5月13日毎日新聞)など、抗議する女性たちをからかう男目線の言葉が散りばめられていた。

1980年代後半には「アグネス論争」が起きた。アグネス・チャンさんが楽屋に子どもを連れて出勤している様子を、女性著名人たちが批判した。当時の批判のロジックは、「個人的な理由(=子育て)で迷惑をかける」「神聖な職場に子どもを連れてきてはいけない」というもの。

アグネス論争では、女性研究者たちが擁護にまわり、「育児のために職場に迷惑をかけてはいけないという論理が『正論』としてまかり通るとき、女性たちはあたかも子育ての苦労などないように振る舞わざるを得なかった」という意見を述べた。

それから約30年後の2017年、今度は熊本市議会で子連れ議員への批判が巻き起こった。生後7か月の赤ちゃんを連れた緒方夕佳市議が議場に入場したところ、議員や職員以外が議場に入ることは規則で禁じられているため開会が40分遅れた。

このニュースが伝えられると、ネット上で彼女の行動に対する批判が多く書き込まれた。その批判はアグネス論争のときと似ていて、「乳幼児がいると議事の進行を妨げる」「子育てで迷惑をかけている」などであった。