野党側が『大統領を屈服させた』とアピールしたい?

 一連の混乱について金教授は「実は与党vs.野党の政治的な戦い」だといいます。今回、拘束に応じた尹大統領ですが、合同捜査本部の構成に不満があり、捜査の正当性を認めないアピールをしています。

 ―――背景には、合同捜査本部に野党が作った組織が入っているという見方がある?

 「そうですね。一連の逮捕劇を法律論的に見るとそんなに意味はないんです。司法においては捜査、取り調べをして裁判で真実を明らかにするという流れですが、今回の逮捕は48時間の身柄拘束以外の意味はないので、本当に取り調べをするのであれば、黙秘権を主張している尹大統領をあえてここまで無理して逮捕する必要はなかった」

 「なぜかというと、これは政治的な与野党の戦いであると。弾劾裁判が終わった後に、(辞めさせられる場合は)新しい大統領が決まりますが、誰が新しい大統領になるんだと、与野党の戦いが始まっているわけです。その意味では尹大統領側から見れば、捜査権のない合同捜査本部が自分に対して不当な捜査および逮捕状の請求を通じて官邸にまで踏み入ってきたと。だからこの捜査には応じられないけれども、武力衝突を避けるためにとりあえずは出頭するというスタンスをとっています」

 ―――拘束の目的は「取り調べ」よりも、「大統領を屈服させた」と国民へのアピール?

 「もちろん普通の人でも、警察が何度も出頭要請しているのに無視すると、逮捕状を請求して逮捕するのはよくある話です。ただ相手が大統領となるとそういうわけにはいかない。国会議員の場合も不逮捕特権みたいなものがありますから、それなりに手続きを踏むことはできたんだろうけれども、待ったなしで逮捕に踏み切ったと」

 「その背景は、合同捜査本部の中で主な陣頭指揮をとっている高位公職者捜査庁という過去に野党が作った組織が、『大統領を屈服させた』『我々は勝利した』と野党支持者側にアピールしたい、野党にもアピールしたい。今回相当無理をしていますので、とりあえずは逮捕に成功したけれども、手続きに関してはこれからも与野党の攻防などが続いていくと思います」