国力低下も外国人を引き寄せる求心力が強まっている不思議
観光客が日本の一面しか見ていないとはいえ、これだけ日本に惹かれる姿を目の当たりにして考えさせられる。
最初に「日本の良さ」に触れたが、アメリカ人としてどうしても日米比較をしてしまう。日本の平均寿命がアメリカより5-6年長く、そのギャップも広がっている。殺人の発生率はアメリカのおよそ30分の1、医療の皆保険制度や公共交通機関が充実して、おいしい寿司をコンビニで買えることも考えると、一定の収入があれば大変暮らしやすい国だと感じている。自民党が少数与党になっても、政治がおおむね安定していることも大きい。
まわりには、日本のインターナショナルスクールで教育を受けて海外の大学に行った人は「社会人になったら、日本に住みたい」という声を聴く。少なくとも日本にはそういう人を引き寄せる求心力がある。景気低迷が長引いて、国力が落ちていると多くの日本人が感じるなかで、この求心力が強くなっているのが不思議な現象。
年の瀬に一時日本に戻った際、ホンダと日産の統合計画を発表する記者会見に行った。日本で合併発表の会見を何度か取材した経験があり、記者として不満が出そうなところは十分あった。
「救済ではない」という建前論、両社とも圧倒的にアメリカを中心とした海外市場で稼いでいるのに、一人を除いて質問者は全員日本の報道機関の日本人記者。昔ならカチンときただろう。
年月が進んでいるせいか、今回の気持ちはちょっと違った。海外の大手企業社長は記者会見にほとんど応じなくなったので、日本はまだましだと実感したし、「こういう社長会見は日本の伝統的な儀式だ。毎回変わらないのはむしろ尊敬していいんだ」と自分に言い聞かせた。
年末年始にNHKの「ゆく年くる年」を見て、近所の神社で初詣、家族が集まり、元旦に静まり返っている商店街を歩く。この時代に変わらないものに価値がある。35年以上日本と付き合い、最近そう思った。
〈執筆者略歴〉
ピーター・ランダース
1969年 米ニューヨーク州生まれ。
1990年 日本史や日本語を勉強したイェール大学を卒業。翌年、AP通信東京支局記者。その後、経済誌の東京支局長に。
1999年 米経済紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」に入社。本社(ニューヨーク)やワシントンD.C.支局で勤務。
2014年 東京支局長に。日本語に堪能で、TBSテレビ「情報7daysニュースキャスター」やBSフジのニュース番組などテレビ番組への出演多数。
2024年7月 アジア総局ビジネス金融部長(現職)、同年10月からシンガポール在住。
【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。