豊作だったドラマ
2024年のテレビドラマは、話題作、問題作の多い豊作の年だったと言える。
24年の前半の話題をさらったのは、何といってもTBSテレビが放送した「不適切にもほどがある!」だろう。コンプライアンスの遵守が厳しく求められ、メディア表現の現場が窮屈になったとされる昨今、それを逆手にとってドラマのネタにした。
昭和と令和とをタイムトラベルする主人公に現代社会の違和感を語らせることで、現代の日本の世相を表現させ、視聴者の心を掴んだ。この作品は、ギャラクシー賞の「テレビ特別賞」「マイベストTV賞」を受賞したほか、すでに多くのテレビアワードで評価されている。
また、2024年4月からスタートしたNHK連続ドラマ「虎に翼」は、日本で初めて女性で弁護士、判事、裁判長を務めた三淵嘉子の生涯をモデルに、社会の不平等や格差、貧困といった社会病理に、法の下の平等を掲げ、真正面から取り組む主人公の直向きな姿が、女性の社会活躍を盛り上げようとする現代社会の空気と共鳴し、共感を呼んだ。
「大河ドラマ 光る君」(NHK)、「嘘解きレトリック」(フジテレビ)、日曜劇場「海に眠るダイヤモンド」(TBS)など、視聴率的には圧倒的に高い成績を残さなくとも、その話題性やSNS上での評価が、新たな再生数を呼び込むことにつながるようになってきた。
他方で、2024年は、テレビドラマを基点とした映画化の動きも活発となった。
ざっと挙げただけでも、TBSの連ドラ「アンナチュラル」「MIU404」と連動するシェアード・ユニバース・ムービー「ラストマイル」の8月公開、フジテレビの人気連ドラ「踊る大捜査線」のスピンオフ企画「室井慎次 敗れざる者」(10月公開)、その続編「室井慎次 生き続ける者」(11月公開)、テレビ朝日「劇場版Doctor-X FINAL」(12月公開)、TBSの「グランメゾン・パリ」(12月公開)と、上映公開が続いた。クロスメディア展開の活性化である。
その背景には、CTV(コネクテッドTV)の伸張があろう。例えば、TVerでのアクセス数で圧倒的に上位を占めるのは、ドラマである。近年、放送局側も、ドラマ枠の増加が続いている。連続テレビドラマの映画化は、コンテンツ戦略にも結びつくことになる。
また、TBSテレビが、1-3月期に放送した火曜ドラマ「Eye Love You」は、二階堂ふみ演ずるテレパス能力を持つ人気チョコレートショップの社長・本宮侑里と、韓国の人気スターのチェ・ジョンヒョプ演ずる年下韓国留学生ユン・テオとのラブストーリーである。
その作品の完成度については、賛否があるものの、この番組は、日本での放送とほぼ同時期に韓国でもNetflixなどで配信。韓国でも、同時ヒットという新たな現象を生んだ。海外展開との連動という新たな可能性を感じさせるものとなった。
放送番組の制作環境の変化
昨年も「文春砲」は元気だった。2023年12月に「週刊文春」が報じた吉本興業所属の人気お笑いコンビ「ダウンタウン」の松本人志さんの性加害疑惑報道は、松本さん側の「週刊文春」への記事の訂正と、その発行元である文藝春秋社に損害賠償を求める訴えに発展。松本さんは、裁判準備のためテレビ番組の出演を見合わせるとし、テレビの舞台から姿を消した。
昨年11月、松本さん側は、文藝春秋への訴えの取り下げを発表。ただ、松本さんの会見等、本件に関する松本さん側からの説明の場が開かれたわけではない。そのことからすれば、松本さんのテレビ界復帰は、まだまだ高いハードルがあるとみるべきだろう。
2023年に注目を集め、被害者の賠償にまで発展した旧・ジャニーズ事務所の創業者による性加害問題もあって、放送界では、人権問題に関して、より慎重にならざるを得ない状況に至っている。
この間、放送局の現場では、人権デュー・ディリジェンスの公表や、人権に関するガイドラインの制定などが進められている。他方において、10月には、総務省から「放送コンテンツの製作取引適正化に関するガイドライン 第8版」が公表されるなど、制作現場における取引状況の適正化が進められつつある。
時代状況が大きく変化しつつあるといえるだろう。