多様化する視聴スタイルと、令和のホームドラマが目指すもの

――現代ではあらゆる層に支持される番組を作ることが難しくなってきていると思いますが、『スロウトレイン』はどんな視聴者を想定されていますか?
土井 少し前までは、F1=女性20〜34歳、F2=女性35〜49歳など、いわゆる「主婦層」という言葉を使い、チャンネル権を持っている層に向けて制作していたところもあります。今は女性たちも仕事を持ち、テレビの前で見るだけでなく、自分の見たい時間にスマートフォンなどで楽しむのが当たり前の時代です。だからこそ、本作はそういう方々にも届くホームドラマを目指しました。
――ドラマが持つ力についてはどうお考えでしょうか。
野木 例えば『逃げるは恥だが役に立つ』(2016/原作・海野つなみ)は原作の力もあり、たくさんの方に見ていただけました。ただ、そこで描いたことで世界がどれぐらい変わったかと言われると、あまり変わっていないような気もしています。良くも悪くも世の中の進みはゆっくりです。劇的に何かを変えることはできなくても、ドラマでスタンダードとして描くことで、少しずつ意識は変わっていくのかもしれない…と思います。
――ある意味、ドラマも誰かの“分岐点”になるものですよね。
土井 オリジナル作品に限らず、この仕事をしていると、時々誰かの人生に知らず知らず何らかの影響を与えていることに気付かされます。僕が手掛けたドラマを見て「看護師になろうと思いました」とか、映画「いま、会いにゆきます」を見て、「そのときの人と結婚し、子どもが20歳になりました」とか、折に触れて、知らないどこかの誰かの人生に影響を与えていることを知ることも。そのたびに、当たり前ですが、「ちゃんと作らなきゃいけないな」と背筋が伸びます。世の中の見過ごされていることをエンターテインメントを通して届けることも、この仕事の醍醐味。何かを伝える仕事であり、伝えること、伝えたことへの責任を持たないといけないなと思っています。
オリジナルドラマには、制作者の経験と信念が色濃く反映される。ゼロから紡がれた物語とキャラクターが、視聴者に新たな発見や共感を届ける。見えない誰かの“分岐点”になる可能性を秘めた作品は、これからもその存在意義を問い続けていくだろう。
