検察側は論告で「注意義務怠った過失は極めて重大と言わざるを得ない」、2人を死亡させ2人に大けがをさせた「刑事責任は極めて重い」と断罪。「遺族の報復心を和らげ痛みを幾ばくか癒やすことができるのは実刑判決以外にない」として禁固5年の実刑を求めました。

検察の論告が終わると、(女性A)さん遺族の担当弁護士から意見陳述が行われました。これは刑事訴訟法316条の38の規定に基づいたもので「求刑意見」を述べることができ、被害者参加人もしくは委託を受けた弁護士に許された陳述である一方、実例は決して多くありません。

遺族側弁護士は、まず一般情状に関して意見を述べました。(以下、意見陳述より一部抜粋)

▼遺族側弁護士が“異例”の意見陳述 「被告は事故後も1年間トラックを運転していた」

「(1)被告人は反省もしておらず被害者は被告人から謝罪すらされていない。
『謝罪しても許されないだろうから謝罪できなかった』というのは単に自己保身のために事件から目を背ける態度としか言えない。
被告人は被害者の命日の2日前に(女性Aさん)の自宅に花を送りつけてきた。
約1年も何の連絡もないまま突然花だけを贈る行為は訪問や謝罪文を書くことすら手間であると被告人が思ったとしか受け取れず、遺族の感情を深く侮辱するものに他ならない。
公判で述べた『申し訳ない』という言葉は被告人に有利な情状として考慮されてはならない。

(2)賠償の見込みは有利な情状ではない。
賠償金は勤務先が契約する保険会社から支払われるもので、被告人に有利な情状として考慮されるべきではない。
被告人からすれば雇用主、保険会社と被害者の間で処理されるものに過ぎず、被告人に有利に考慮する理由はない。


(3)被告人の公判での「運転免許を再取得しない」という話に信用性はない。
被告人は、事故から運転免許が取り消された2023年11月1日までの約1年、事故後もトラックの運転を続けていた。
捜査段階では、免許の再取得をする意向があるとし、その理由として『トラックの運転が好きだから』と供述していた。
それが公判で突然、『恐怖心』を理由に取得しないと供述した。事故後約1年もトラックを運転していながら「突然恐怖心を覚えた」は不合理極まりない。
免許の取得は法律上不可能ではなく、被告人の思い一つで再取得が可能。
免許取得しないことを有利な情状とするために、あえてそのように供述したとしか考えれない。

(4)事件前後の状況の不均衡について(女性A)さんは第一事故、第二事故に遭遇し、その使命感から人命救助を試みたが、被告人の無責任な運転によって命を失った。
当時25歳、夢や希望を抱いていた(女性A)さんには何の落ち度もない。
遺族らは絶望的な喪失感を味わい、いまだにその悲しみから癒やされることはない。
一方、被告人は事件後も身柄を拘束されるわけでもなく勤め先でもしばらくはトラック運転手を続け、免許取り消し後は倉庫内作業をし、その思い一つで免許の再取得が可能な状況。
そして社長は引き続き被告人を雇用する意向を表明した。
捜査に数回協力するために時間を割いたこと、事故後に1年間免許を取り消されたことしか不利益を被っていない。
事件は終わったも同然という感覚なのでしょう。
そうでなければ(男性A)さんの下の名前を忘れるなど考えられない。遺族の状況と被告人の状況はあまりにも大きな不均衡がある」