「ADHD」の特性が犯行に「直接的に影響を及ぼしたか」

裁判の争点は、女にどの程度の刑罰を科すかという「量刑」。

着目されたのは、①犯行の計画性と殺意、そして、②女の「境界知能」(IQが平均的な数値と知的障害とされる数値の間である状態)や「ADHD(注意欠如・多動症)」の特性が犯行に与えた影響だ。

【検察側の主張】
①犯行の計画性と殺意
→交際相手の男性と何の仕事もせず、ぶらぶらと遊び暮らす中、妊娠後に交際相手が自分にさしたる関心を抱かなかったことに失望や苛立ちを感じ、出産の約4か月前には、生まれたら殺して捨てようと考えていた。

女の子の顔面などに、3周程度ブランケットを固く巻き付けて鼻口部を塞ぎ、バッグの中に入れて放置したことからも、強固な殺意に基づく残虐な犯行だといえる。

②女の特性が犯行に与えた影響
→女は、小学校と中学校で普通科を卒業していて、成績も中程度であった上、居酒屋でのアルバイト経験もあり、女の知的能力は通常の成人と大差ない。

また、女は、殺害を回避するための手段を検討できていた。女の特性が犯行に与えた影響は限定的であり、過度に斟酌すべきではない。

【弁護側の主張】
①犯行の計画性と殺意
→妊娠発覚後、女は一度も病院を受診しておらず、出産に向けた想定ができない中、当然、犯行への準備もできていなかった。自身が考えていた出産時期よりも1か月ほど早く陣痛を迎え、衝動的に犯行に至っているといえる。

②女の特性が犯行に与えた影響
→女は、軽度知的発達症に近い水準の「境界知能」や「ADHD」の特性があった。加えて、女は幼少期、母親が結婚離婚を繰り返し、父親から虐待を受けるなど不安定な環境で育ったことなどにより、思考力・理解力が相当程度低下していた。

女は、特性の影響で、出産をするかどうかや、赤ちゃんを育てるかどうかについて決められなかったため、犯行には酌むべき事情が大いにある。

証人尋問では、検察側、弁護側それぞれの鑑定人医師が証言台に立った。双方、女に「ADHD」の特性があるという診断は共通していて、その特性が犯行に「直接的に影響を及ぼしたか」が争点となった。

【弁護側の医師】
女はADHDの特性に加え、幼少期からの家庭環境などの影響により、場当たり的な行動をとりやすく、優先順位をつけることが苦手などの傾向がある。

犯行時、女は孤立出産により、心身に大きなダメージが加わり、特性による衝動性が高まったことで、思考力や判断力がある程度、低下していた。

【検察側の医師】
平均的な人に比べると、女の思考力・理解力は低かったと言えるが、「女の子を殺すしかない」という動機形成には直接、影響を及ぼしていない。

犯行は合目的に一貫して行われたものであり、例え、妊娠・出産という極度のストレス化に置かれていたとしても、現実検討能力に減退をきたすものではない。

女は事件のことを、どう思っているのか。

「被告人質問」で女が証言台に立った。