コンビの仲の良さは会話

――本作には“愛のかけ違い”というキーワードが隠れていますが、平井さんが思うコミュニケーションの大切さ、思いが食い違わないようにするための方法は何でしょう。

きちんと会話をすることが大切だと思います。時には話すことが面倒くさくて「察してくれよ」と思うこともありますが、それは近しい間柄の家族や恋人、僕で言えば相方に対しても、そんな都合良く自分のことを察してくれるような相手はいないんだぞと考えるようにしています。

自分自身ですらなかなか制御できない感情ですから、それを周りの人たちに「察してくれ」は難しいですよね。だからこそ、「察してもらえなかった」ことに腹を立てるのではなく、こちらから働きかけて、きちんと話すようにしています。それがお互いの理解を深めるための一番の方法だと思っています。

――これまでのコンビ活動の中で、“食い違ってしまったな”と思うエピソードを教えてください。

僕と相方の浦井は、これまで大げんかをしたことはないんですが、互いにイライラすることはあります。ただギスギスした関係になるのが面倒で黙ってしまうこともありました。でも、それが積もりに積もったら、いずれどこかで爆発してしまうので逃げずに話すようにしています。

以前、単独ライブの公演期間中だったのですが、別のコントを作ってほしいと言われていたんです。その昼公演と夜公演の合間をぬって2本の台本を仕上げて、浦井に「これ、チェックしてくれ」と渡したら、その場で浦井が台本を胸に乗せて寝てしまったんです。その浦井の行動にとてもムカついてしまったのですが、その場では何も言えなかったんです。後日、別のユニットコントの本番が終わった後も、その際の腹立たしさがまだ残っていて、普段なら2人で楽屋を出て駅まで一緒に帰ることが多いのですが、そのときは浦井を置いていくくらい早歩きをして帰りました。

その僕の様子を見た浦井が「こいつ、怒っているな」と気づいて、翌日「ちょっと飲みに行こう」と誘われました。そこで「最近、怒っていることあるよね?」と聞かれて、そのときの出来事を話したら、「すまなかった」と謝ってくれたんです。そこで僕も浦井に「逆に、僕に対して何か言いたいことはある?」と尋ねるというような会話をしました。この出来事がきっかけで、余裕がないときでも話し合いの時間を持つようにしています。もっとも、ここ数年は日常的に会話をしているので、改まった話し合いはあまりしていません。でも、あの出来事をきっかけに、話すことの大切さを改めて実感しています。

取材中、ネタ作りを担当する平井さんらしい捉え方で、コントとドラマそれぞれで役になりきり、観客に届けるまでのスピードを丁寧に教えてくれた。なりきることは同じであっても、伝えられる情報量でかけ違いが起こってしまう。表現者と観客の間でかけ違いが起きないように練られたテクニックを目の当たりにして、相手を受け取めること、働きかけることのさじ加減の難しさを教わった。