国民案・立憲案で“政治的判断”を迫られる石破総理

藤森祥平キャスター:
国民民主党の玉木代表が言う「103万円の壁」の見直し案は実現するのでしょうか。
TBSスペシャルコメンテーター 星浩さん:
地方は財源が足りなくなるということで悲鳴を上げていますし、玉木代表は178万円まで引き上げる根拠に、最低賃金が1.7倍くらいになっているからと言いますが、国や自民党からすれば、物価のレベルでいうと(最低賃金は)10%ぐらいしか上がっていないということになるでしょう。
なので、「せいぜい130万円ぐらいじゃないか」という議論があり、玉木代表の178万円という金額の満額回答は難しそうです。

それからもう一つ、130万円の「社会保険の壁」もあって、130万円を超えると社会保険の支払いが生じて、ガクッと手取りが減ってしまいます。
それに対して、立憲民主党が給付金という形で200万円くらいまで税金で穴埋めする案を出していますが、実は政府の中でも「なかなか良いのではないか」という議論になっていて、こちらも検討の対象になっています。
これは税金と違い社会保険の方なので、厚生労働省の分野です。
藤森キャスター:
立憲民主党の案、今まであまり表に出てきていなかったような気がしますが…
星さん:
実は、政府の専門家の中にもこの案を支持する動きはあります。
小川彩佳キャスター:
現状、国民民主党と合意して、“103万円の壁”の見直しを受け入れる形で自民党で議論が行われていますが、立憲民主党の“130万円の壁”の見直し案も取り入れる可能性があるということですか。

星さん:
国民民主党の「“103万円の壁”の見直し」は、控除を増やしてやるわけですが、それでは地方からは不安の声があがり、財源の問題もあります。
立憲民主党の「“130万円の壁”対策」は数千億円で、それほど財源の問題は大きくなく、地方には直接の影響はありません。
政策的な面と、2024年の通常国会や参議院選挙を睨んで、野党第一党の立憲民主党の案を重んじるべきか、28人で鍵を握っている国民民主党を重んじるかという政治的な判断を石破総理は迫られているという状況です。
東京大学准教授 斎藤幸平さん:
「財源はどうするのか」という議論に必ずなりますが、私は結構、税金を払うのが好きです。
ドイツで過ごした経験が大きいと思いますが、大学や医療費がタダで、税金にすごく支えられたという気持ちがあります。払えば払った分だけ社会に役立ってるという感じもあって、いいことはあると思います。
でも、今の日本は社会のことよりも、まず自分の手取りを増やしたいという人が多いようです。それだけ生活が厳しいのだと思いますし、「税金を払っても無駄になる」という考えが蔓延してしまっているのでしょう。
どうしても税金は必要になるのに、税金を社会のために使い、負担をどう考えるのかということを議論すること自体が難しくなってしまっているのは、根深い問題だと感じます。
星さん:
「103万円の壁」の見直しに必要な7兆円、8兆円の財源があるのであれば、むしろ大学の授業料を安くするとか、奨学金を充実させるなど、学生がアルバイトをしなくても済むような環境作りについて議論してもらいたいと思います。
小川キャスター:
「税金を払いたくない」「(税金は)少ない方がいい」という大前提をリセットして議論する必要があるのかもしれません。
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<プロフィール>
星浩さん
TBSスペシャルコメンテーター
1955年生まれ 福島県出身
政治記者歴30年
斎藤幸平さん
東京大学准教授 専門は経済思想 社会思想
著書『人新世の「資本論」』が50万部突破