廷内(イメージ)

 迎えた判決の日。

 (大阪地裁・松本英男裁判官)
 「主文、被告人を懲役2年8か月に処する」

 松本裁判官は刑を決めた理由について、「被害額は4年9か月分、合計約650万円と多額で、長期間にわたり、継続的な勤労収入があるのにこれを届け出ず、強い非難を向けなければならない」としつつ、「詐取金を弁済したい、生活保護費を受給するつもりはないなどと反省の態度を示し、年齢を考慮して刑を決めた」と説明した。ただ、「経緯動機に特に酌むべきものはない」として、34年前の事件には触れなかった。

 まっすぐ裁判長を見つめて判決を聞いていた水谷受刑者。控訴はせず服役することを選んだ。
ダイナマイト爆殺事件の現場の様子(1988年)

 81歳。それでも、「タクシー運転手として働いて金を返したい」と繰り返し訴えてきた。なぜ高齢の身でタクシー運転手として働き続けたいのか、判決言い渡しの後、弁護人が明かしてくれた。

 (弁護人)
「水谷さんは、タクシー運転手をしていれば、いつか事件で離ればなれになった娘さんを自分のタクシーに乗せるかもしれない、と話しています。だからこそ、本気で働き続けたいと考えているようです」

 生活保護の不正受給は犯罪である。ただ水谷受刑者の場合、理不尽な取り調べを受け、疑いが晴れてからも警察や検察から納得のいく謝罪が無かったことが、犯罪につながる遠因だったこともまた然りである。世の中には、同じように過去に理不尽な思いをさせられ、あるいは人生を狂わされるような出来事に遭ったことで、長きにわたって恨みを募らせ、時として取り返しのつかない大事件を起こす人もいるのではないか――。

 水谷歌二受刑者の事件や裁判の過程は、メディアで全く報じられていない。傍聴した法廷で耳にし、その後を取材して知ることになった「国への長年の恨み」は、裁判官から言及されることもなく、この先も彷徨い続けていくのだろうか。数多(あまた)の事件の中にそれぞれの事情や人生があり、それを「知る・伝える」。司法記者として改めて考えさせられた、そんな傍聴取材だった。

(MBS司法担当 清水貴太記者)