横浜市と川崎市にまたがる神奈川19区 「政治を変えて欲しい」分厚い無党派層の票の行方は
神奈川19区は複雑だ。横浜市都筑区と川崎市宮前区は、隣に位置するというだけで、お互い行政的なつながりは薄い。どの政党も、宮前区に入るときには川崎市議が、都筑区に入るときには横浜市議が、大きな演説会では両方が揃って…と、取材していても調整が大変だろうな、と感じる場面は多かった。
「組織固め」と一言で言うけれども、自らの支持層、組織が固まったとて、さらなる難関が待ち受ける。ある選対関係者曰く「組織固めをしても、どちらの区にも分厚い無党派層がいる。選挙の「風」でものすごい票数が動く選挙区だから、さらに票を積み増してくのは難しい」と。神奈川都民と呼ばれる、東京に職場を持ち、通勤する住民も多い。こうした都市部の人たちは、政党名から候補者を考える人も多い。
実際、選挙戦を取材していても熾烈な戦いだった。情勢調査では自民・草間候補が手堅く組織をまとめつつ先行し、それを立憲・佐藤氏と国民民主・深作氏が激しく追い上げる構図。
が、実際に選挙戦を回ってみると、候補者同士、例えば、草間氏と佐藤氏がすれ違えば、お互いに和やかに挨拶する姿も。「実際、草間さんとは仲良いですよ。別に選挙で争っているだけで、向こうは向こうで実績のある方ですから」と立憲・佐藤氏が淡々と語っていたのは印象に残った。「宿敵」「遺恨」「因縁」など何かと私たちは形容詞をつけたがるが、新設されたその区ではそうした古い政治の風習からは少し解き放たれていた。
開票結果は、投じられた20万票あまりのうち、自民・草間氏が6万4315票で激戦を制した。立憲の佐藤候補は5万857票、国民の深作候補は5万578票。まさに「三つ巴」、選挙当日の当選確実報道も、各社、日付を超えても出ない大激戦だった。
裏金問題の中「自民党を内部から変える」と主張していた自民の草間氏は、その裏金問題で、自民党が全国的に大幅に議席を減らす中での出発となり、自民党をどう変えるため行動するのかが、まず問われてくることになる。
野党の立憲、国民の2人の候補からすれば、選挙区調整をしていれば圧勝だったが、割れてもなお、これだけの得票が二人に寄せられたのは、「政治を変えて欲しい」という分厚い無党派層がこの選挙区にいたという証左だろう。立憲の佐藤氏は比例復活が出来なかった。今後、この新設区で捲土重来を期すことになる。国民の深作氏は比例復活し、国会の場に立つことになる。
短い選挙戦は終わった。しかし、3氏とも「自分の成し遂げたい」政策について、どの候補者もどこまで浸透し切れたのか、残った後悔もそれぞれ多いのではないかと忖度する。いずれもが共通して訴えていたのは「これまでの政治を変える」「生活のための政治」「1人1人のための政治」。特に最後の「1人1人のため」はどこでも誰でも使われるフレーズだが、この無党派が多い地域では、政治の最終目標が個人やそれぞれの家族の幸せの実現にあり、そのために政治に興味を持って欲しい願望の現れとして3人とも繰り返していたのではないか。
経済活動が、結局は、1人1人の経済活動・消費行動の集積体であるのと同様、神奈川19区から「全国民の代表」である衆議院議員を送り出すのも、1人1人の政治行動の集積体だ。
神奈川19区というまっさらな新たな区から選ばれた国会議員が、その演説などで繰り返した言葉通り、1人1人を考え、寄り添った政治が展開することができるのか―
試されるのはこれからだ。