取材を終えて

車椅子に乗ったカロリーナさんが、初めて待合室に姿を見せてくれた時の光景を、私は今でも鮮明に覚えている。余命3か月の状態であったため、顔色は悪く、左目を十分に開けることができず、私の胸は締め付けられた。

しかし、両脇に座った息子と娘にぎゅっと手を握られたカロリーナさんは、穏やかで幸せに包まれた表情を見せている。それを見た時、私はこの家族の絆の深さを痛切に思った。

「素敵な家族ですね」と声をかけた私に対し、カロリーナさんは「ええ」とにこやかに頷いてくれた。

安楽死が合法化されたスペインで、その選択をせず、最後まで生を全うしたカロリーナさん。それを可能にしたホスピスでの最期の日々が、長女のマリアさんのその後の人生を変えることになった。

心臓の疾患がある女性とマリアさん

マリアさんは母親を看取ったあと、それまで勤めていた大学の事務職を辞め、ホスピスでボランティアとして患者のケアを行うようになった。

「母の最期のお世話ができた時、私は自分の人生の優先順位がわかりました。ホスピスに戻って、誰かの手助けをしなければならないと思ったのです」

カロリーナさんが亡くなったホスピスには、心臓の疾患で終末期にある女性の車椅子を押すマリアさんの姿があった。

「ホスピスを選ぶことは、安楽死を選択するよりもずっと良いことは明らかです」

ラファエルさん

一方、同じスペインにはラファエルさんのように耐え難い痛みに悩まされ、安楽死を一つの選択肢と捉えている人もいる。

「死ぬ権利は生まれる権利と同じ。安楽死は生きるための『心のお守り』」。そう訴える彼の言葉も、私の心に重く響いている。