「最初から無罪」と思った元裁判官

袴田さんの無罪判決をテレビで見届けた、熊田俊博さん(75)。袴田さんは無罪だと思っていた2人目の元裁判官だ。

熊田さんは、袴田さんが静岡地裁に対して求めた、再審請求の審理に関わった。

熊田俊博 元裁判官
「私の心証としては、これは再審開始の方向だなと。私はもう最初から無罪だという風に思っていたものですから」

熊田さんも「5点の衣類」に疑問を抱いた。

熊田俊博 元裁判官
「(袴田さんが)拘留されてから1年2か月も経って、犯行現場のすぐそばにあるみそタンクの中から着衣が出てくるという発見の経過自体がおかしいわけですよ。当然、捜査段階で事件が起きれば、すぐみそタンクの中を丹念に捜査官が捜索するわけですよ。その段階で見つかっていないということなのに、1年2か月も経ってからそこで発見された」

開かずの扉とも呼ばれる再審。開かれるには「無罪であることを示す新しい証拠」が必要となる。

熊田さんも参加した協議の場で、弁護団は、検察に対して証拠の開示を求めた。8か月が経って、検察が出してきた回答は…

検察の意見書(1985年)
「検察官は弁護人からなされた検察官未提出証拠の提出方要望に対し、これに応ずる意思はない」

熊田さんは、当時、裁判所にできることはなかったと話す。

熊田俊博 元裁判官
「(裁判所が)検察官に対し、証拠開示の命令をする規定もない。規定がないということは検察も裁判所の『開示しなさい』ということに対して、応えて、開示する法的な義務はない。再審の証拠開示に関する規定がないばかりに、ずっと苦労してきているわけですよ」

再審請求では証拠開示に関するルールが定められていない。そのため、弁護側が請求しても、検察は応じる義務はない。そして裁判所にも、証拠を提出させる法的な力はない。

熊田さんは、1987年、再審を開くかどうかを決める前に退官した。

その7年後、静岡地裁は「5点の衣類」が袴田さんの犯行着衣という認定を覆すことなく、再審の請求を棄却した。

なぜ、無罪の心証を抱く裁判官もいながら、再審は退けられたのか。

熊田俊博 元裁判官
「確定判決には何十人という裁判官が関わっている。(当時の裁判官には)よほどのことがない限り、『間違いない』という意識が強いと思う。よほど画期的な新証拠が出ないと、『確定判決を覆すことはできない』という意識が非常に強かったんじゃないかと思う」