カスタマーハラスメントの複合的要因

このようにみてくると一見カスハラは、過度な要求や理不尽な言動をする顧客だけに焦点があたりがちです。ところがじつはカスハラというものは、様々な要因が絡み合って起こっていることがわかっています。顧客と対応者、そしてその関係性(顧客と対応者の相性など)、組織の要因、業種業態に特有の事情、社会経済状況などなど…、わたしたち自身消費者として、お店に行った時のことを考えてみるとわかりやすいかもしれません。

お店に入ったときは店員さんに攻撃的な態度をとるなんて気はなかったのに、帰るころにはイライラ、もやもや、不快なきもちになること、ありませんか。例えば対応者の不遜な態度、言い終わらないうちにかぶせるような受け答え、急いでいるのに丁寧すぎる対応、自分だけサービスを受けられなかった不公平感、お店のまどろっこしい配置、急激な人員削減によるサービスの偏りなどなど…。

これらがきっかけ(トリガー)となって、またはそれらが複数つみ重なり、カスハラが生まれてしまう。きっかけは単一かもしれませんが、往々にしてこのような複数の要因が絡み合って、不幸にもハラスメントが生まれてしまうことがイメージできるでしょう。

整いつつある制度

2022年厚労省より、カスタマーハラスメント対策企業マニュアルが発布されて以降、さまざまな動きがありました。

2023年9月には、労災認定を評価する基準となる「業務による心理的負荷」の中に、「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」、いわゆるカスタマーハラスメントが追加されました。これでたとえば、カスハラを受けた従業員が心身の不調をきたし就業不能になった場合、労災認定が下りる可能性が出てきます。

また、2023年12月には旅館業法が改正されました。過剰なサービスの要求や、長時間にわたる不当な行為など、いわゆるカスハラを行った者の宿泊を拒むことができる、いわゆる“宿泊拒否事由の追加”、がなされています。また2024年夏現在、従業員をカスハラから守る対策を講じるよう、企業に義務付ける方針が厚労省より出されており、関係法の改正に向けて準備が進んでいます。

さらに東京都をはじめいくつかの自治体では、カスハラ防止条例の制定に向けて動きが加速しています。これら一連のカスハラ対策はすべて、従業員の心身や就業環境を守る極めて大切な取り組みであり、日々、困難な顧客対応に苦しんでいる方々にとって、組織や国が後ろ盾となる、心強い施策となるでしょう。