スナイプ手術-連続1000例の成績

世良先生は東城大の「僧帽弁閉鎖不全症に対するスナイプ手術-連続1000例の成績-」という題名の文献を取り出し、小児に対するスナイプ手術の項目をチェックして手術に臨みます。

一方、悪性高熱に対するダントロレンがない状況で天城先生は人工心肺を開始し、高階先生は冷却を指示、垣谷先生は患者の頭部に氷を当てて冷却します(ここで一旦垣谷先生は不潔となり、手術に戻る場合には再度手洗い消毒する必要があります)。また高熱になると酸素消費量が上がるために酸素を100%として、また二酸化炭素排出が増えるために過換気にして血中二酸化炭素濃度を下げようとします(この場合人工心肺に乗っているので、そこまでは必要ないかもしれませんが)。

天城先生は頼みの綱である右の内胸動脈が損傷していることに気が付きます。前回の司先生がオペを行った時に損傷してしまったのでしょう。

なぜグラフトがほとんど使われているのか

なぜ左内胸動脈、足の静脈(大伏在静脈)そして右の内胸動脈も損傷し、グラフトというグラフトがほとんど使われているのか…天城先生は心臓をぱっと見た瞬間に冠動脈が3箇所とも切離されていることに気づきます。癒着しているので普通はわからないのですが、ダイレクトアナストモーシスの大家である天城先生にはすぐに分かってしまったのです。

佐伯教授は言います。司先生も佐伯教授も何としてもダイレクトアナストモーシスを完成させたかったと。天城先生を治すために。そのために司先生は天城先生の右の内胸動脈は触らずに、将来のダイレクトアナストモーシスのために温存しておいたのです。そして新病院を作り有能な外科医を集め天城先生を治療しようと邁進していたと。

天城先生はやむを得ず左橈骨動脈の採取に取り掛かります。前腕(肘から手にかけての腕)の動脈は橈骨動脈と尺骨動脈という2本の動脈に分かれていて、橈骨動脈を使用しても尺骨動脈からの血流は保たれますので橈骨動脈を切除しても問題ないのです。

冠動脈の手術の前には様々な検査を行い、グラフトとして使用する可能性が高い血管の性状をチェックしておくのですが、今回は術前検査を充分に行えていない状況です。高階先生が「状態がわからないので使えるかどうか…」と言ったのはそのためです。悪い予感は当たり、採取した橈骨動脈は解離していて3cm程しか使用できないことが判明します。

天城先生は最後の頼みである腹部の血管、胃大網動脈の使用を試みます。CGでもあったように胃大網動脈は胃の下(足側)に走っていて、この血管がグラフトとして使用できると発表したのは日本人である須磨久善先生で1986年のことでした。

天城先生は創を腹部まで延長して胃大網動脈の採取に取り掛かりますが、不整脈が出てしまいます。さらに悪性高熱がぶり返し患者の体温は再度急上昇します。