二宮和也主演で6年ぶりに日曜劇場に帰還した『ブラックペアン シーズン2』。シーズン1に引き続き、医学監修を務めるのは山岸俊介氏だ。前作で好評を博したのが、ドラマにまつわる様々な疑問に答える人気コーナー「片っ端から、教えてやるよ。」。今回はシーズン2で放送された10話の医学的解説についてお届けする。

ダントロレンがない

第10話は前回からの公開オペの続きで、ダントロレンがないというところから始まります。天城先生は人工心肺を使用して物理的に体を冷却しようとします。これは理にかなっていて人工心肺で体の血液を抜いて、それを冷却して体に返すことで体温を下げることが出来るのです。

これは我々が良く使う技術で、大動脈の手術では体の血流を止めないといけませんので、人工心肺で身体を冷却します。身体を冷却することにより身体の代謝が落ちますので、ある意味冬眠状態を作ることが出来て血流が無くても生命維持ができ、その間に大動脈を人工血管に取り替える手術を行います(詳しくいうと頭には血液を送り保護し、心臓には心筋保護液を冠動脈から入れて保護しています)。

虚血性僧帽弁閉鎖不全症

同時刻に結衣ちゃんが急変します。何回か登場している虚血性僧帽弁閉鎖不全症です。

冠動脈に瘤があると、瘤に血栓ができることがあり、それが冠動脈の血流を落とす可能性があります。冠動脈の血流が落ちると、心臓はしっかり収縮できずに心室は大きくなります。すると中の扉(僧帽弁)はしっかりと閉じず、閉鎖不全症が起きてしまうのです。

世良先生はここでも優秀さを発揮します。冠動脈に病変がある方が急変(ここでは呼吸不全)したときに真っ先に聴診しています。病室に入った瞬間に、結衣ちゃんが呼吸が苦しそうにしている様子を見て、すぐに虚血性僧帽弁閉鎖不全症を疑い聴診して雑音を確認、さらにその診断を確証するために心臓エコー検査を行い確定診断をしています。「やっぱりな、逆流している」というセリフからも予想通りだということが分かります。世良先生は結衣ちゃんの急性僧帽弁閉鎖不全症(いきなり僧帽弁が逆流してしまう)を緊急手術と判断します。

現実世界だと僧帽弁形成術+瘤切除+冠動脈バイパス術になりますが、ブラックペアンの世界ではスナイプで僧帽弁を治療してからダイレクトアナストモーシスができればダイレクトアナストモーシスを行い、できなければ冠動脈バイパス術+瘤切除となります。

世良先生はさすが優秀で高階先生のスナイプ手術を日々良く勉強していたのでしょう。スナイプなら自分にでも治療出来ると黒崎先生に進言します。黒崎先生も世良先生が今まで努力してきたことを知っていたし結衣ちゃんを助けたいという強い思いも感じて世良先生なら信頼できると考え、世良先生の執刀を許可します。

通常メインとして手術している先生が、緊急手術や学会などで手が離せないときに、若手に執刀機会が訪れるということはよくある事です。ですので、若手はいつ手術が巡ってきても良いように日々勉強して準備をしておく必要があります。