治療を続ける理由は「みんなと一緒に同じものを食べたい」

佑人さんが苦しい思いをしても治療を続ける理由は実に少年らしかった。

佑人さん
「一番の理由はみんなと一緒にピザとか同じものを食べたいから」
―1番食べたいものは?
「チョコレート!!」

少しずつ、少しずつ、牛乳に慣れることで、乳製品が入っている食べ物にも挑戦していった。ハンバーガーやフライドチキンなどファストフードも食べられるようになった。「乳製品」は驚くほどたくさんの食品に含まれているのだ。

中学生になると、牛乳を210ccまで飲めるようになった。でも味は、苦手。

身体を慣れさせておくため、今も週に2回は、飲むようにしている。症状は随分、よくなった。

経口免疫療法は、画期的な治療と期待が高い一方で、ショックを引き起こすことがあるため、治療法はまだ、確立していない。

診療ガイドラインにも「食物アレルギー診療を熟知した専門医が、慎重に行うべき」とされている。量を増やす方法や治療方針は、医師によって異なる。佑人さんの主治医の谷内昇一郎医師は当時を振り返りこう話す。

谷内昇一郎 医師
「自分の考えは間違っていなかったというのはある。あんなきついことをやって失敗するかもしれない。命落とすかもしれない、でも佑人くんは今、牛乳を飲んでいる。違和感あるというけどアルバイトもして普通に生活している、それは彼にとってハッピーだったと思う」

佑人さん
「治療で苦しかった記憶は今あまりもうない。案外そういうしんどかったであろう記憶って、ぽいっと忘れちゃっていますね」

当初は、「アレルギーなのになぜ飲ませるのだ」と批判も受けた。孤独な時間を過ごしたこともあった。

成長と共に、母親の真友子さんが痛感したのは「自分の身を守ること」の大切さ。自分のアレルギーを知ることでアレルギーを理由に人生の幅を狭めて欲しくないと考えるようになった。

大森さんが今も忘れられない言葉がある。佑人さんが小さい時に相談に行った役場で担当者からこう言われた。

大森真友子さん
社会に適応できないお子さんだから、おうちでみたらどうですかって。確かに牛乳飲んだら症状出るけどそれ以外は普通に生活できるのに。言葉で刺されること多くて今もナイフは刺さったまま」

ほかの人たちが無用に傷つく必要はない。