集団的過熱取材と「相似形」
むろん、私たちのような地元メディアはもちろん、県外を含め多様なメディアが訪れ、被災地の実情や課題を取材し、全国や世界に発信することが、復旧や復興、支援の広がり、今後の防災や災害対策などに資することは言うまでもない。報道にはその使命がある。今回、全国各地の報道機関が被災地の苦境を伝えてくれたことに、この場を借りてお礼を申し上げたい。
一方で、奥能登の「命綱」とも呼ぶべき道路の交通容量が圧迫され、被災地で深刻な渋滞が起きれば「目の前の命」が危険にさらされる。
地元紙も含め、各地からメディアが被災地に集中すれば、その分、必ず、交通容量は消費される。1台1台の車両通行が消費する交通容量は微々たるものだとしても、積み重なれば渋滞の要因となる。
1台1台の車両が消費する交通容量が少ない分、自分の通行が渋滞の一因になるとの考えに至りにくい側面がある。この点に、筆者は「メディアスクラム=集団的過熱取材」と「被災地渋滞」との「相似形」を見る思いがする。
メディアスクラムの現場でも、1人1人の記者としては報道の使命を果たそうとの思いを抱いているだろう。個々の取材行動自体は、相手に大きな負担をかけるものではないかもしれない。しかし、それらが積み重なればメディアスクラムに発展する。
個々の現場での集団的過熱取材よりも、実は「被災地渋滞」の方が、救命活動などの遅れを生むという点で、より広範囲で深刻な悪影響を及ぼしている恐れもある。
だが、「被災地渋滞」は、メディアも、メディア以外も含め、車列にいる一人一人が「自分もスクラムの加担者である」という意識を抱きにくい。「広く薄いスクラム」「本人の自覚無きスクラム」が、実は、より大きな損失を社会に与えている可能性はないだろうか。
本稿のテーマに関連して筆者が抱く問題意識について、いくつか箇条書きし、拙論を締めくくりたい。
(1)メディア各社が大型バスなどに乗り合わせて被災地入りすれば、交通容量の温存につながると指摘する論者もいる。だが、その場合、被災地に到着後、広大な現場を徒歩だけで取材することはできず、現地で「足」に困る。何か、いいアイデアはないか。
(2)代表取材のような対応が必要になる可能性もあるが、その場合、メディア統制につながったり、メディアの多様性が損なわれたりする恐れはないのか。
(3)中継車のような大型機材や、多人数の取材班をできるだけコンパクト化しながら、報道の質や量を保つ効果的な方法はないか。
(4)被災地渋滞を防ぐため、行政側がより適切に交通規制を行ったり、震災のフェーズに応じた交通情報を発信したりすることは可能なのか。それとも、そうしたことをすると、逆に混乱が生じたり、移動権や取材の自由の制限につながる恐れがあるのか。
(5)馳浩石川県知事が発災直後、渋滞を念頭に一般ボランティアの能登入りを控えるよう呼びかけたが、どう評価すべきか。発災直後に一般ボランティアが多く被災地入りすれば渋滞に拍車がかかった可能性がある。一方で馳知事の呼びかけが、ボランティアの能登入りにブレーキをかけたとの見方もある。行政やメディアは震災のフェーズに応じて、ボランティアの重要性を訴える情報発信を、もっと効果的にできなかったのか。
(6)発災後、奥能登で渋滞が起きたにもかかわらず、SNS(交流サイト)などでは「渋滞は起きていなかった」との言説が出回った。こうした言説はなぜ生じたのか。背景に、どのような心理があるのか。
(7)道路が寸断され、海岸隆起も起き、冬季で天候に恵まれなかったとはいえ、自衛隊などは、もっとホーバークラフト揚陸艇など海路や、大型ヘリなど空路を活用できなかったのか。自衛隊は自然災害以外の有事を想定しているはずだが、もしそうした事態が起きた場合、実効性のある対応ができるのか。
(8)志賀原発は運転停止中とはいえ、今回の震災では、原子力災害が起きた場合の避難経路でも多くの道路寸断が起きた。バスで住民を避難させるにしても、発災時に、人手不足の奥能登で、十分なバスや運転手を確保できるのだろうか。
(9)道路寸断が多発した能登ではインフラ強靱化が必須である一方、あれだけ多数の土砂崩れを全て防ぐのは難しい。道路が寸断しても対応可能な輸送手段や備蓄、エネルギー確保策を考える必要がある。だが、人口減少が進む過疎地にそれだけの投資が可能なのか。
南海トラフ地震や、首都直下地震を想定すれば、能登半島のような過疎地だけでなく、人口過密エリアでも考えるべき課題を含んでいるように、筆者には思われる。
〈執筆者略歴〉
宮本 南吉(みやもと・なんきち)
1976年石川県生まれ。
早稲田大学第一文学部卒業後、2000年北國新聞社入社。
小松支社、社会部、富山本社などで地方自治や公共交通を取材。
2023年から現職(編集局主幹)。
北國新聞で発災直後の1月7日から休刊日を除き毎日掲載している連載「1・1大震災 日本海側からのSOS」でデスクを務める。同連載は掲載230回を超え、継続中。
【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版(TBSメディア総研が発行)で、テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。2024年6月、原則土曜日公開・配信のウィークリーマガジンにリニューアル。














