能登半島地震では、被災地への通行可能なルートで深刻な渋滞が発生した。その影響で救援活動が遅れるなどして失われた人命もあったとみられるが、この渋滞車列の中には取材へ急ぐメディア関係の車両も少なくなかった。地元紙・北國新聞社の宮本南吉記者(編集局主幹)はこの現象を「自覚無きメディアスクラム」と名付け、今後の災害対応に向けて問題提起する。
メディアスクラムの「もう一つの層」
能登半島地震の被災地で起きた現実を通し、「メディアスクラム」の問題を「二つの層」に分けて考えてみたい。
「一つ目の層」は文字通りのメディアスクラム、つまり「集団的過熱取材」の問題だ。これについては、胸に手を当てて考えれば、大なり小なり「罪悪感」を覚えるメディア関係者もいるかもしれない。
一方、この文章で取り上げる「もう一つの層」は、取材している本人が「自分もメディアスクラムに加担している当事者である」と気づきにくい側面がある。「自覚無きメディアスクラム」と呼んでもいい。
筆者が書こうとしているのは、次のような問題だ。
アクセスルートが限られた奥能登の被災地で、メディア関係の車が「被災地渋滞」を助長した側面はなかったか?
この問題は「報道の自由」、さらに言えば、基本的人権の一つである「移動権(交通権)」に関わるデリケートな要素を含み、また、メディア側だけに限定されない広範かつ重大なテーマである。単純な答えの出る話ではないが、能登の教訓を次の災害対応に生かすためにも問題提起していきたい。