早川先生の手術
早川先生が倒れ、緊急手術が必要となります。冠動脈に瘤ができると1番危険なのは瘤の破裂です。瘤が破裂してしまうと大出血して命に関わります。
もう一つ危険なのは瘤の中に血の塊が出来て冠動脈を塞いでしまうことです。今回はおそらく冠動脈の瘤の中に血栓があり前下行枝への血流が落ちてしまったのでしょう。狭心症の発作を起こしてしまいました。
早川先生の場合は瘤の形態からダイレクトアナストモーシスが1番良いとのこと(現実なら瘤の縫合とバイパス術が選択されると思います)。これは天城先生が行うダイレクトアナストモーシスが1番オペの成功率が高く、長期に長持ちするという意味です。
しかし、天城先生は右手をゴルフで痛めて3日間はオペできないという。ここで緊急処置的に選択された術式が瘤の切除(縫合)と橈骨動脈によるバイパス手術でした。橈骨動脈は腕にある動脈で、良く脈を手首で測る時に触る動脈です。
採ってしまって大丈夫なの?と思われると思いますが、実は尺骨動脈という動脈が反対側にあり橈骨動脈は採ってしまっても大きな問題はないのです。ただ採取する時に神経を触ったりもしますので多少の神経障害が残る場合があります。手を使った細かい作業をされる方にはお勧めはしていません。最近では内視鏡でも採れますので傷も小さくてすみますし、10年程度は長期の開存が期待できるグラフトです。
今回はとりあえず橈骨動脈でバイパスして、3日以上経って天城先生が両手でオペできるようになったら橈骨動脈のバイパスよりも長期成績が良いダイレクトアナストモーシスを行おうという方針となりました。
オペは無事終わるのですが、エルカノダーウィンが暴走してしまい猫田さんが必死に止め、なんとか大惨事を免れたのですが…その夜縫合した瘤から出血してしまいます。
密かに医師免許を取得していた猫田さんはフェルトを使用して瘤の再縫合を行います。フェルトを使用することにより、弱い組織でもしっかりと縫合することができるのです。ここら辺の判断は非常に難しく糸の種類を選ぶのも、かなりの技量がいるのですが、さすが渡海先生のもとで修行しただけあります。フェルトの選択も糸の選択も大正解です。
6年前の回想シーンで渡海先生と猫田さんの縫合練習のシーンは、これまた2人は実際に縫合していて、念のため自分も手元を撮ったのですがはっきりいって必要ないと思うくらい2人は上手でした。
前室で練習していると、あー6年前もやったやったとスイスイ縫っていて手のブレも全くなく本番もスイスイ。これはもう俳優という職業と外科手技の手元の器用さは相関関係があるような気がしてなりません。
普通は持針器を外す(開く)だけでも難しいのですが、きちんとした力の入れ方でスムーズに外し、ブレることなく針を把持(つかむことが)できる。鑷子での針の保持する力も安定していて、外科医としてのセンスも抜群でした。
この時、天城先生は「回旋枝(かいせんし)に気をつけて」と言っています。これは瘤(左主幹部)の近くには前下行枝と回旋枝があり、前下行枝はバイパスしてあり血流は問題ないのですが、もし瘤を深く縫い過ぎてしまうと回旋枝の根本が閉塞してしまう可能性があるから気をつけて、と言っているのです。結果的にはちゃんと止血はできたものの回旋枝が閉塞してしまい血流が途絶えてしまいました。
アラームが鳴りSTが上昇しています!と新井さんが言ってくれるのですが、このSTとは心電図の一部で、この部分が上がっていると心臓の筋肉に血液が行ってないよ、ということを意味します。こうなると急いで血流を流さないといけません。天城先生は自身の左手とエルカノダーウィンと猫田さんでダイレクトアナストモーシスを行います。
左手メッツエンや持針器で針を扱う天城先生、剥離を共にする猫田先生、その間ダーウィンを操作する私…非常に大変な撮影でありましたがカッコ良いオペシーンが撮れました。狭い術野で何本もの道具を同時に操作する手元撮影は本当に大変でした(汗)。
今回の天城先生のシャンスサンプルはいつもと少し違うテスト形式でした。内胸動脈は今回のポート(ダーウィンのアームが挿入される穴)の位置からすると左の内胸動脈は近すぎて取りにくく、かつ画像所見から右の内胸動脈の方が太くて性状が良好であったため、右の内胸動脈が適応としては良く、猫田さんは見事に的中させたという流れでした。