有効な対策は?

オーバーツーリズムへの対策には、次のようにいくつかの方法がある。これらは程度に応じて段階的、選択的に行われるだけでなく、同時並行で行われる場合もある。

(1)需要の分散化とマナーの啓発

過剰な観光需要によって生ずる量的問題を解決するため、特定地域への需要の集中を避け、分散化を促そうとする対策の例として「京都観光快適度マップ」がある。これは、サイト上で京都の主な観光エリアごとの混雑度を表示することで、観光客の自律的な分散化を促そうとする試みである。

もう一つは、好ましくない観光行動によって生ずる質的問題を解決しようとする取り組みである。「京都観光行動基準(京都観光モラル)」(京都市・京都市観光協会[2020])や「ツーリストシップ」(一般社団法人ツーリストシップ(旧一般社団法人CHIE-NO-WA)[2019])の提唱、“Mlama Hawai‘i”(ハワイ=旅先を思いやる心)として発信されている“Responsible Tourism”(責任ある観光)のメッセージ(ハワイ州観光局[2021])などがその例であろう※注2)。また、観光前に動画やレクチャーを通じてマナー啓発を行う方法もある。

(2)観光客への注意喚起、迷惑行為の警告・監視

京都祇園町南地区協議会が設置した「私道での撮影禁止や無許可での写真撮影は1万円を徴収する」ことを記した高札や、錦市場の「食べ歩き禁止」の表示等は観光客に向けた注意喚起・警告の例である。

美瑛町では、農地への無断侵入を防ぐため、監視用の屋外IPカメラを設置し、あわせて「監視カメラ作動中」の表示や自動音声発出も行われ、一定の成果をあげているという(週刊トラベルジャーナル2024/7/15)。

(3)公的規制、有料化や予約制等による需要の制限・抑制

条例の制定等、公的規制を設けたり、より実効性のある過剰需要の抑制策として有料化や予約制を導入する場合もある。

鎌倉市では、「住んでよかった、訪れてよかった」と思われる成熟した観光都市をめざして「鎌倉市公共の場所におけるマナーの向上に関する条例」(2019)が定められているし、渋谷区では路上飲酒を禁止する条例が制定されている(2019年にはハロウィン・年越しイベント時の禁止⇒2024年に通年禁止に改正)。富士山の山梨県側では、今シーズンから予約制を導入し、登山者を1日4000人に制限し、1人2000円の通行料を徴収している。

“Regenerative Tourism”(再生型観光)を掲げるハワイでは、ダイヤモンドヘッドへの登山やハナウマ湾等で予約制が導入されているし、ハナウマ湾自然保護区では入場料を25ドルに値上げし、1日の入場者数を1400人に制限している(オリエンテーション・ビデオの視聴も義務づけ)。

ヴェネチアでは、今年4月から旧市街への日帰り客を対象に入島税5ユーロ(特定日)を徴収しはじめた。竹富島では2019年から入域料300円を、宮島では2023年から入島税100円を徴収している。

(4)行動の物理的抑止

富士河口湖町のように、幕を設置して、迷惑の原因となる行動自体を抑止する方法がある。他には、富士山の山梨県側のように安全確保のため入場時間を制限し登山道を閉鎖する方法もある。