「富士山ローソン」問題が問いかけるもの
オーバーツーリズムは、有名観光地だけの問題ではなく、SNSへの投稿をきっかけに、突然「映える写真スポット」として注目され、観光客が急増することにより予期せぬ悪影響が生ずることもある。その典型が今年俄かに注目を集めた、いわゆる「富士山ローソン」問題(富士河口湖町)であろう。
この問題は、2022年秋頃に海外のインフルエンサーが投稿した「富士山がCVSの屋根の上に乗ったように見える写真」がきっかけとなり、突如、同じ写真を撮ろうとする観光客が急増するようになったことで悪影響が生じ、ついに町が「写真撮影ができないように幕を設置する」というある意味「強硬な」対策に乗り出したことから注目を集めた。
写真を撮ろうとする観光客は、車道を挟んで反対側にある歯科医院側から撮影をしようとするため、危険な横断をしたり、狭い歩道が通院患者の出入りに支障をきたすほど混雑したり、ゴミが散乱する等の問題が発生するようになった。
「危険横断やゴミ捨てを禁止する看板」(多言語で表記)を設置し、警備員を配備する等の対策もとられたが、迷惑行為が改められないまま観光客が増え続け、苦情が増加するようになったことから、町は「苦渋の決断」として、歩道からの写真撮影ができないよう「幅20m×高さ2.5mの黒いビニール製の幕」を設置するに至った(朝日新聞2024/5/20)。
この問題は、端的に言えば、「観光客が特定の場所に集中したこと」と「自己中心的で無遠慮な観光客の行動」によって生じたものである。「ほかにもっと穏便な方法はなかったのか」とする声もあるが、注意喚起が効果を発揮しなかった以上、強硬な抑止策を取らざるをえなかったということであろう。
この対策は、撮影自体を抑止する強硬策であるだけでなく、「マナーが悪い観光客は来ないでほしい」というメッセージを発する効果があるものと考えられる。話題性のある奇抜な対策だけに様々なメディアでこの問題が取り上げられることで、「地域社会に迷惑をかける観光行動には“毅然とした”態度で臨む」というメッセージが広く拡散していくことが期待される。