とにかく「約束は守れ」?
田幸 ただ、リキがSNSなどで、結構たたかれる面があって、おもしろいのが「契約をしたからにはちゃんと遂行しろ」という批判がすごく多いこと。脚本の長田さんにインタビューしたときにもおっしゃっていたんですが、日本人は契約を正しく履行しろという思いが強い。
影山 約束は守れと。
田幸 例えば海外だったら、リキのアウトローぐあいを応援する人もいるだろうし、そもそもの契約のずさんさを突く人もいるだろうけれど、ちゃんと約束したからには守れというのが、日本人らしいところです。
あと、自分自身の嫌なところだなと思ったのが、やっぱり1000万円はでかいなと思ってしまったところです。今の世の中で1000万円という金額は、本当は命がけの出産という大変なことで、そもそも代理出産が許されるのかという問題もあるのに、1000万円もらうんだからしょうがないみたいな、自分自身の中にある「えっ、その感情どうなの?」みたいなのも突きつけられる作品でした。
倉田 リキへの批判が多いのは、やっぱり日本が正しさを求め過ぎる社会になっているあらわれかなと思います。人間は正しいことばかりじゃないんだということが、ある程度許容される世の中になっていないと感じますね。
影山 いろんな意見があって、それぞれ個々を尊重しながらやりとりするのが、エンターテインメントにおいても健全な状況だと思うんですが、何か自分たちが許しがたいと思ったら、その相対するものをたたき潰すというのかな。これがエンタメの世界でも今、割とまかり通っているというのが残念です。
田幸 脚本の長田さんがインタビューで「私はどこかに仮想敵をつくって、そこに塩を投げてスカッとするような作劇はこれからもしない」とおっしゃったんです。その宣言にすごくしびれました。勧善懲悪、どこかに悪者をつくって、みんなでたたいて、スッキリするようなものがわかりやすくて、それが好きな人もいるとは思いますが、今のドラマはもう、そういうものではなくなってきていると感じます。そんな単純な世の中ではないので、恐らく同じような勧善懲悪のトーンのドラマが出てきたら、みんな「何だこりゃ」と感じるだろうと思います。
倉田 仮想敵をつくって、やっつけて、みんなでスカッとする。その「みんな」の中にやっつけられた側は含まれてないわけです。これだけ多様性があって、いろんな人がいていい社会を目指しているのに、やっつけられた側だけには、光を当てないということはもう許されないですよね。
影山 多様な社会とうたい出してからのほうが、より多様な社会ではなくなっているような、この矛盾というのは何なんでしょう。
田幸 透明化されていた人たち、これまで見えないものとされていた人たちが、苦しかった、嫌だった、つらかったと声を上げることで、見えないことにしていた側、それは、私自身の中にもある感情ですが、見えないことにしていた人たちは、自分が責められているような気持ちになるんだと思います。
倉田 そこで、突きつけられるわけじゃないですか。差別された側が声を上げることによって、あっ、私は差別をする側の人間だったんだと気づかされた後ろめたさ、恥ずかしさみたいなものを正面から受けとめられないときに、反発してしまう。そういう人間の心理が働いているのは感じますね。














