テレビの音量じゃなかった「アンメット」

影山 「アンメット ある脳外科医の日記」(カンテレ)へ行きましょう。

倉田 今期は記憶喪失ドラマが多くて、何でこんなにかぶるんだろうと思っていましたが、そのくくりの作品の中で特にすばらしかったと思います。

 まず、杉咲花さん演じる主人公の記憶喪失の症状が深刻です。過去2年分の記憶がなくて、1日たつと前の日の記憶も失くしてしまう。これは何て厄介な症状なんだろうと見ていたんですが、彼女の演技がすばらしい。そんな状況の中、医療従事者として生きている人物として、全く違和感がありませんでした。
 
 主人公が毎日、その日にあったことを日記につけて、次の日またそれを見返さなければならない一方で、記憶がなくても医療行為はできるというのを周りが支えている。すごく優しい世界で、こういう優しさが広まればいいなという気持ちになりました。もちろん恋愛ドラマとしても、ドキドキしましたし、医療ドラマと恋愛ドラマの両方のよさを感じました。

田幸 脳の機能の一部を失うようなことがあったとしても、そこからでも希望は見つけていけるんだという実感を、杉咲さんの表現力が伝えていました。後半に行くにつれて、ドラマというより、そこに生きている人たちのドキュメンタリーを見ているような感覚になって、もう最終回のやりとりが、テレビの音量じゃないんですよ。

影山 あれも長回しでしたね。

田幸 長回しで、テレビのしゃべりじゃない。普通にすぐそこにいる人たちの会話をたまたま聞いちゃったような音量とスピードと間です。あれをドラマでやられたら、ちょっとドラマづくりが変わっちゃうんじゃないかと思います。ながら見を絶対させない。そこに生きる人たちのドキュメンタリーになっていたのがすごいなと思いました。