白黒はっきりさせない「アンチヒーロー」
影山 「アンチヒーロー」(TBS)はいかがですか。
倉田 長谷川博己さん演じる弁護士がいい人なんだか悪い人なんだか。弁護士は正義の味方という社会のイメージの中で、あえて真逆を行く弁護士を主人公にすえて、どんな物語になるのかと思いながら見始めました。依頼人のためなら何でもする悪徳弁護士かというと、そうでもないし、このキャラクターづくりが、すごく魅力的です。
実際、主人公は、冤罪事件の被害者を再審にかけるために、法律ぎりぎりの手段を使って、信念を持って被告を救おうと動くわけです。もちろん、自分が検事時代にかかわった冤罪事件で、それは自分が晴らさなければという思いもあるんですが、それでも最後まで、この人は本当にいい人なのかわからないところに引きつけられました。
あと、ラスボス的存在というか、野村萬斎さん演じる検事との法廷での直接対決のシーンに私はもう、しびれました。
影山 あれは長回しでしたね。
倉田 お互いに演技を超えたというか、それぞれ役になり切って、すごい対決シーンだと感激しながら見ました。
刑務所で罪を償って出てきた後にも、社会からは偏見の目で見られる。そういう状況が、悲しいけれど現実にあるわけです。冤罪で有罪になった男性が、実は横領事件を起こしていた人間だから、社会的に責められてもしようがないんだという野村萬斎さんのセリフがあったんですけれども。
影山 あそこの設定はうまかったですね。
倉田 自分が正義だと思うと、ちょっと悪いことをしている人をバッシングしていいといった空気が、今の日本にはある。SNS上でいろんな人が謝罪や、それこそ自殺に追い込まれることもありますが、一度失敗したらもう二度と戻ってこられない社会でいいんですかという問いかけを感じました。
影山 白と黒、〇×をはっきりさせたがる、ある種デジタルというか、二進法というか、そういう社会ですけど、実はその間がものすごくある。社会や人間というのはそんなに単純明快じゃない、というところを見せていましたね。