牛のげっぷ由来のメタンガス抑制は全国で研究進む
神奈川県畜産技術センター以外にも、牛のげっぷから出るメタンガスの抑制に取り組む動きは全国で活発になっている。その背景の一つは、2020年10月に政府が2050年までのカーボンニュートラルの実現を目標に掲げたことだ。メタンガスの温室効果は二酸化炭素の約28倍もあることから、メタンガスの発生を抑止することは、カーボンニュートラルを実現するためにも必要だと捉えられるようになった。
もう一つは、従来は難しかった牛のげっぷによるメタンガスの排出量を、これまでよりも簡単に算出できる方法が開発されたことだ。農業と食品産業に関する国内最大の研究機関である農研機構が、2022年に新たな算出式を開発して、マニュアル化した。
これまで測定にはチャンバーと呼ばれる大きな施設が必要だったが、牛の呼気中のメタンガスと二酸化炭素の濃度を1日数回測定することで、メタンガスの排出量を推定できる。この方法を活用することで、チャンバーなどがなくても算出が可能になり、全国各地で研究しやすくなった。


神奈川県内では昔から食品会社が多いことから、おからやビール製造後に出るビールかすのほか、かつては余った米飯も牛などの飼料として使われていた。地元で入手できるものを餌に変えるのは、もともとは餌のコストを減らすためだった。それが環境面で見直されたのは最近のことだ。
まず、前述したとおり、おからを発酵させた飼料を与えることによって、メタンガスの発生を抑える直接的な効果が期待される。おからに含まれる不飽和脂肪酸が、牛の胃の中で発生する水素を消費するため、結果的にメタンガスの発生を抑えることにつながっている。
また、本来は焼却処分される食品残渣をエコフィードとして再利用することで、焼却による二酸化炭素の発生も削減できる。
神奈川県畜産技術センターでは、環境に優しい畜産を実現することで、将来的には県内の畜産物の差別化や消費拡大につながることも期待している。ただ、牛のげっぷから出るメタンガスの抑制はまだ道半ばで、今後は海藻にどれだけの削減効果を見出せるかどうかが鍵を握りそうだ。(「調査情報デジタル」編集部)
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