心タンポナーデ
関川先生が楠木さんのところに駆けつけ心エコー検査をすると心タンポナーデを見つけます。
心タンポナーデとは何かといいますと、心臓は胸の真ん中あたりにあるのですが、心嚢という袋に入っており、その心嚢に血液や体液が溜ってしまい、中の心臓を圧迫してしまう状況です。大きな袋の中に入ってその中に水を入れられるようなものです。水に圧迫されて動けなくなってしまうように、心臓もまわりの液体によりうまく動けなくなり、全身に血液を送れない状態になります。
楠木さんの場合は図1にあるように、心臓の周りにある冠動脈の瘤が破裂して、そこから大量に出血して心嚢に血液が溜ってしまった状態です。心タンポナーデを見つけたらどうするかですが、心嚢穿刺と言って心嚢に針を刺して液体(血液)を抜くのが一般的といわれ、1話で渡海先生が宮川さんの急変の時におこなった処置と一緒です。
宮川さんの場合は急性心不全で心嚢液貯留という状態で、あの時引けた心嚢液は少し黄色がかった透明でした。急性心不全の場合はそのような透明な心嚢液が引けてきますが、急性大動脈解離や楠木さんの冠動脈瘤破裂のときは赤い血液が引けてきます。
ここでポイントは急性心不全の時は心嚢液を抜いてあげると、心臓は楽になるのですが、急性大動脈解離や冠動脈瘤破裂の時の心タンポナーデで安易に心嚢液(血液)を抜くと、心臓は元気になり血圧が急上昇します。血圧が急上昇すると逆に出血しやすくなりますので、心臓は楽になり良かったものの、どんどん出血してしまい取り返しのつかないことになってしまうのです(出血しすぎて逆に血圧は下がっていきます)。
心タンポナーデを認めたら、血圧が保てているのであれば、まず心タンポナーデの原因を検索するというのが非常に大切になります(心臓が止まっている、止まりかけているなら心タンポナーデを解除するしかありませんが)。
むやみやたらと心嚢穿刺をして心嚢液または血液を抜くと取り返しのつかないことになります。また心嚢穿刺はそこまで簡単な処置ではありません。いままで誤って心臓に針が刺さってしまった例を何例も見てきました。
急性大動脈解離や冠動脈瘤の破裂のときは血圧が50や60くらいで保てるのであれば、早急に手術室に運んで手術を開始するのがセオリーです。関川先生の判断はナイス判断です。
このような血圧が出ない、心臓が止まりそうな時の状態を我々は循環が破綻した状態と言います。循環が破綻した時は一刻も早く人工心肺を組んで、人工心肺を回します(スナイプの人工弁が左心室に食い込み左室破裂をした時の高階先生の判断を思い出してください)。
そして、そのような緊急処置の手術の場合、ほぼ100%正中切開といって胸の真ん中を切開して手術を開始します(下行大動脈の破裂等の場合は例外です)。関川先生の判断はセオリー通りです。