歌劇場には停電以外の影響も オーケストラメンバーは120人から80人に減少

ウクライナ国立オデーサ歌劇場

200年以上の歴史を誇り、ウクライナで最も古い歌劇場であるオデーサ歌劇場。そこで活動するオーケストラのメンバーは侵攻前は120人いたが、ウクライナ軍への動員などで現在は80人まで減ってしまったという。また、劇場の収容人数も、本来の劇場のキャパシティは1600人だが、現在は劇場の地下にあるシェルターの最大収容人数である500人に制限している。空襲警報が鳴る日もある。滞在に危険が伴うオデーサでなぜ指揮をするのか。その理由について吉田さんに聞くと。

「世界で一番音楽が必要とされている場所だからです。音楽を届けるということが音楽家の存在意義、本分です」
「音楽が求められている場所があれば、そこに行くというそれだけのことだ」と力強く話した。

終演後 ウクライナ軍の兵士らと記念撮影する吉田さん

今回の公演では、終了後に兵士約20人が一緒に来て涙を流しながら 「ありがとう」「すてきな演奏だった」とそれぞれの思いを伝えてくれたことが印象的だったという。今回演奏されたのはイタリア語のオペラの楽曲であることから、ウクライナの人々の中には楽曲のストーリーもイタリア語も分からない人が多くいたが、「それでも勇気や希望を感じることができたのは、音楽そのものが持つ力によるものだ」と訴えた。

「オデーサ歌劇場のオーケストラが奏でる音楽を日本に届けたい」

吉田さんがオーケストラのメンバーを支える活動は他にもある。今年1月には、「オデーサ歌劇場のオーケストラが奏でる音楽を日本の人々に届けたい」という思いから、来日公演を目標にクラウドファンディングを実施した。そして、2ヶ月間で460人以上から1500万円を超える支援を得ることができたため、来年3月にオデーサ市の姉妹都市である横浜市の神奈川県民ホールで小規模編成の来日公演を実施することが決定した。ただ、残念ながらフル編成のオーケストラでの来日公演を実施するために必要な2000万円には到達しなかった。そのため、約80人のフルオーケストラでの来日公演を実現するために、クラウドファンディングの第2弾に取り組み、資金集めを続けている。その思いを吉田さんはこのように語った。

「(オーケストラのメンバーは)とにかく日本に行きたい、日本人の前で演奏したいという本当に熱い思いを持っているので、自分たちの音楽、自分たちの伝統と芸術を日本のみんなにも聞いてもらいたいと言ってるので、何とか叶えてあげたい」

来日公演を実現させ、日本の人たちにも厳しい状況でも音楽を続けるメンバーの演奏を聞いてもらいたいと情熱的に語ってくれた。

オデーサ歌劇場と日本の交流は吉田さんのエピソード以外にもある。日本の音楽メーカー「ヤマハ」が、オデーサ歌劇場から支援の依頼を受け、フルートやオーボエなど楽器5点の寄贈を決定した。歌劇場ではロシアによる侵攻以降、新しい楽器が補充できなかったり、自楽器のメンテナンスが十分にできなかったりなど厳しい状況に置かれている。寄贈は今年の秋頃に実現する予定だという。

6月 オデーサ歌劇場で指揮をする吉田さん

楽器の寄贈について、吉田さんは「楽器の性能はオーケストラの演奏のクオリティに直接関わるので、オーケストラにとって非常に大事だ」と話した。その上で、「ヤマハが寄贈してくれた楽器が演奏のクオリティを上げる。私は指揮者として、演奏のクオリティを上げる。そして、それによってメンバーのモチベーションも上がる」と、こうした取り組みがオーケストラの音楽をより良いものにすると話した。そして、その音楽を日本の人々にも伝えていきたいと話した。

最後に、「オデーサの状況は以前よりも悪くなっていて、街の人口が減っている」、「劇場もいつまでオープンしていられるかわからない」と、劇場の存続についても危機感を示した吉田さん。「今、空襲のアラームが鳴ったそうなのでこれで失礼します」と話し、インタビューは終了した。

執筆者:TBS外信部 落合梨眞