■シベリア抑留 生きて帰るために 自分の心についた嘘


鳥谷邦武(とりや・くにたけ)さん、95歳もシベリア抑留者の一人です。

次々と仲間が死んでいく中、心が麻痺して、悲しむことすらできなくなっていったといいます。

シベリア抑留経験者 鳥谷邦武さん(95)
「亡くなっても当たり前だ。俺もいずれこうなるのかなと思うくらいで。そんなに感情はなかったです。遺体を真っ裸にして着ているものは全部、ふんどしでもなんでもみんな外して、生きている者が使うわけです」

そんな中、鳥谷さんは日本の家族に手紙を出す機会を与えられます。

しかし厳しい検閲があり、自分の心に嘘をつくしかありませんでした。

シベリア抑留経験者 鳥谷邦武さん(95)
「ただ『元気でいます』だけ書いて、『腹が減る』とか『仕事がきつい』とかそういうことは全然書いたらダメなんです。何でも本音ではなくて建前を書かんとですね」


さらに、鳥谷さんがついたもう一つの嘘。それは、共産主義に染まったふりをしたことです。

収容所では、日本人に共産主義を広めるための『赤化教育』が行われていました。

シベリア抑留経験者 鳥谷邦武さん(95)
「そりゃあもうだまされたふりですよ。帰るために。もう本当に共産党員になったような顔して。態度で一生懸命、共産党の歌を歌って」

京都・舞鶴の港。そこに戻ってくるまでに10年以上かかった抑留者もいます。
ようやく帰国しても、『共産主義に染まっている』と差別され、仕事に就くことが難しかった人も多くいました。

祖国に帰るため、仕方なく心に嘘をつくーー。
それは、今の戦争でも同じです。