◆海軍「上官たるもの決して不法な命令発しない」

水兵姿の藤中松雄

海軍では命令が不法なものであった場合、それを「正当なものと信じて従った場合は処罰されない」としていた。そもそも上官が不法な命令を発しないことが前提になっており、命令への絶対服従が徹底されているという。

<海軍からの回答案>
但し日本海軍においては、指揮命令関係の厳格を期する必要上、命令には絶対に服従すべきことを徹底的に教育しているこれは、上官たるものは決して不法な命令を発することのないということを前提としている為、これ指揮官級に対しては、命令に関し十分教育、いやしくも「不法な命令」を出す如きことなきを期して居るわけで、海軍軍人はこれを確く信じ、殊に特務士官以下の者は上官の命令が不法なりや否やを判断するが如きことは通常許されず、絶対に服従すべきものと信じていた。特に第一線に於いて、俘虜を銃剣で殺せと云うが如き命令のあった場合の如きは、特務士官以下の作戦全般の判断力乏しき者に於いては、これに絶対服従すべきものと確信していたことと思う
○「wrong」の意味を適法であるが「不適当な」意味なりとすれば、部下は上官の命令が発せられた以上、それが適当なりや否やを判断することは許されず、絶対に服従すべきものである

◆部下は自分の意見を述べられるか

命令に関する海軍の回答案(国立公文書館所蔵)

(d)部下は自分の意見を述べられるか、については

海軍の慣行及び一般常識上、部下でも幹部級の者は状況により意見を開陳することは出来る、かかる場合は命令の本質上極めて稀なことで、而もこれが採否は一に発令者の判断に待つ

(e)命令が発せられた後、部下は発言権があるか、については

前項の通り、意見開陳はできるが、その後に発せられた命令に対しては発言権はない

(f)命令を発した士官は部下の反対もしくは意見を受け容れねばならないか、については、

状況を判断し、命令者自身の責任に於いて命令を変更することは出来る

(g)部下はその命令が間違いか否かに頓着なくこれに従わねばならないか、については、

不法な命令には従う必要はなく、その他の命令には絶対服従である(但し、日本海軍ではその教育根本方針として下級の部下は如何なる発令にも判断することなく絶対服従する如く永年教育されて来た)

◆従わなければ抗命罪で処罰

石垣島事件の法廷 後列左から三人目が藤中松雄(米国立公文書館所蔵)

要約すると、海軍では部下が意見を述べることはできるようだが、それは極めて稀なことであり、やはり命令は絶対である。そして、

(h)戦時中戦地にあって、間違った命令か否かに拘わらず上官の命令に従わなかった場合の罰は何か、については

命令が不法な場合はこれに従わなくても処罰されない
その他の場合は海軍刑法抗命罪として処罰される


となっている。